2-(3) 選択肢

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 あきらは臍の緒などをさらしに包み直すと、ドラゴンハンターの小さな缶にそっと入れる。 「おー、ぴったり。友哉、ありがと」 「うん。で、木箱の方なんだけど、普通に燃えるゴミでいいのかな」 「いいんじゃない? なんか作法とかあるわけ?」 「お守りとかは、塩で清めてから捨てるとかいうけど……」 「呪いの品は?」 「どうなんだろう」 「あんなもの、砕いて燃やしちゃいたいくらいなんだけどなぁ」 「勝手に焚火すると怒られるよな」 「うーん」  二人で腕を組み、ローテーブルの上の木箱を見る。 「やっぱ燃えるゴミでいいか」 「うん……ね、友哉」 「ん?」 「どうせ捨てるなら、壁のお札もいくつか捨てていい?」  俺は驚いてあきらの顔を見た。  魔除けコレクターみたいになっていく俺をからかうことがあっても、今まで一度も俺のものを捨てろなんて言わなかったのに。 「別に、いいけど……」  魔除けを何のために集めているのかといえば、俺とあきらを守るためだ。あきらが不快になるものを貼っておく必要は無い。 「どれを捨てたいんだ?」 「これと、これと、あとこれも……」  俺はすぐにあきらの言ったお札を壁からはがした。見れば、三つとも同じ神社から授かったものだった。 「大賀見(おおがみ)神社……?」  自分達で参拝して授かったものではなかった。誰からもらったものだったか、すぐには思い出せない。  お札には、『火伏(ひぶせ)、盗賊除け、四足除け』と筆で書いてあり、下の方に犬のような動物が二匹、描かれている。一匹は口を開け、一匹は口を閉じているから、阿吽(あうん)の狛犬だろうか。でもよく見かけるたてがみのある狛犬ではなくて、随分とスリムな犬の絵だ。それ以外は、他の魔除けと比べてみても特に変わったところはないけれど。 「あきらはこのお札も触れないのか」 「たぶん」  あきらはそっと手を伸ばし、うっと小さく声を上げて手を引っ込めた。 「やっぱ触れない……」 「そうか」  あきらは少し蒼ざめた顔で、寒そうに腕をさすった。 「そのお札も、木箱も、すごく嫌だ。『あれ』と同じですごくすごく嫌な気配がする」 「え、同じ?」 「うん、完全に同じ気配」 ―― 『あれ』と神社のお札が同じ気配?  ぐるり。  いきなり天と地とがひっくり返った気がした。  なぜ、『あれ』はあきらを閉じ込め、執拗に攻撃してくるのか。  なぜ、あきらに関わる誰もが、取り憑かれたようにあきらを求めるのか。  思いついてしまった仮説に、トクトクと心臓が鳴り出す。  じっとりと汗が出てきて、指先がかすかに震え出す。  だって、神社のお札に触れないなんて、それじゃまるであきらは……。
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