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あきらはきょとんと俺を見返した。
「あの写真の中の道切りは、どう見ても人が作ったものだったろ」
「だから?」
「道切りをはずしたことで俺達が外に出られるようになったら、その道切りこそが境界線を作っているものだと証明されたことになる。それはすなわち俺達を閉じ込めていたのが生身の人間だっていうことになるんだ」
「生身の人間……」
十年以上も戦ってきた相手が呪いでも妖怪でもなく、祓い屋のような人間だとしたら俺達はどうしたらいいんだろう。
正義は相手側にあって、あきらは退治されなくちゃならない魔物だとでも告げられたら、どうしたらいいんだろう。
「なんだ、人間ならいいじゃん。『あれ』が呪いなんかじゃなくて生きている人間の仕業なら、敵は目も鼻も口もあって話も出来るってことだろ。やっと顔と顔を合わせて、まともなケンカが出来るってことじゃんか」
「ケンカって……。そんな簡単じゃないだろ」
あきらは無害だってことを、知ってもらわなくちゃいけないのに。
「俺はこのままやられっぱなしでいるつもりは無いよ。敵の正体が分かったら、やられた分はきっちりとやり返してやる」
あきらは宙を睨んで、少し怖い顔をした。
「で、でもあきら、誰かを怒鳴ったり暴力をふるったりなんてお前に出来ないだろ」
「出来るよ」
「え」
「出来ると思う、たぶん。したこと無いけど」
「ほら、今までケンカしたことが無いのに急には出来ないって!」
「友哉は俺が腰抜けだと思ってるんだ?」
「いや、腰抜けとかそういうんじゃなくて、あきらは争いごとには向かない穏やかな性格しているから」
「ん-。俺は、友哉が思うほど穏やかなんかじゃないかもよ」
「でも、あきらの乱暴なところなんて一度も見たことが無いし」
あきらはなぜか、ふっと優しく笑った。
「友哉。俺がいつも笑っていて、今までケンカのひとつもしないで生きてこられたのは、友哉がいたからなんだよ」
「え? お、俺?」
「うん。ずっと友哉がそばにいてくれて毎日がめちゃめちゃ楽しかったから、俺は誰のことも怒ったり憎んだりする必要が無かったんだ。それってさ、かなりすごいことだよ。俺はずーっと友哉に守られていたんだ。でもさ、このままだといつかこの平和な時間も終わっちゃう。俺はそんなの絶対に嫌なんだよ」
「俺だって、嫌だけど……」
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