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「あの……倉橋さんって……」
はぁっと感極まったように山川が息を吐いた。
「はぁ……なんだか……すごく……」
「山川さん?」
「あ、いえ、こんなに若い祓い屋さんが来ると思わなかったので……」
「俺達は祓い屋じゃありません。ただの便利屋ですよ」
「あっ、そうですよね。祓うのが専門ではないと聞いています。ええと」
山川は魅入られたように友哉をうっとりと見つめた。
「倉橋さんってきれいですね」
「え? 俺?」
「なんか……後光が差しているみたいで」
「後光? そんなこと初めて言われたな。平凡顔の俺より、あきらの方がイケメンだって女性にすごくモテるけど」
「イケメン……」
山川は俺を振り返り、少し瞬きした。
「ああ、確かにこちらはモデルさんみたいですけど、でも、倉橋さんはちょっと次元が違うというか……」
「じげん?」
友哉はまったく意味が分からないというように、首を傾げる。
さっきの幻覚騒ぎからして、ここは特別に色々と見えやすい場所なんだろう。
ほとんど霊力の無い人間のくせに、山川は友哉の特異な清浄さを感じ取ってしまったらしい。
「あの、倉橋さん。もしよかったら手を握っても?」
「え?」
「えっと、私と、あ、握手をしていただいても……」
「はぁ、別にかまいませんけど」
友哉が右手を出す前に、俺は二人の間に割って入ってぐいっと山川の手を握った。
「どうも。便利屋の相棒をしている久豆葉あきらです。よろしくー」
俺は自分の体で友哉を隠し、山川の目をまっすぐに見つめた。口角を引き上げて、瞳に力を込め、魅力的に見える角度で魅力的に見える形に微笑んで見せる。
山川は俺の顔を見上げ、突然ポカンと口を開いた。
一瞬前まで友哉に興味を持っていたことなど忘れたように、ぽうっとのぼせたような目になって俺を見つめてくる。
「……久豆葉あきらさん」
「うん、なに? 俺の顔に何かついてる?」
「はい……い、いいえ……とても綺麗な方だと思って」
俺はニッと笑った。
「よく言われるー。でも、もう暑いからさっさと始めようよ。アパートの鍵持ってきたんでしょ」
山川はがしっと両手で俺の肩をつかんできた。
「あきらさん恋人はいますか」
「……は?」
「良かったら今日、お食事でも」
「え、ちょっと」
「私はこんなに美しい人を初めて見ました」
「はは、それもよく言われるけども」
「せめて連絡先を教えてもらえませんか」
この炎天下で頭がイカレちゃったわけではない。
この山川という男、こういう『力』との相性が良すぎるんだ。
友哉から意識をそらすだけで良かったのに、俺の力の影響を予想外に強く受けてしまったらしい。
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