(1) 友哉の目に見えるもの

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「あの……倉橋さんって……」  はぁっと感極まったように山川が息を吐いた。 「はぁ……なんだか……すごく……」 「山川さん?」 「あ、いえ、こんなに若い(はら)い屋さんが来ると思わなかったので……」 「俺達は祓い屋じゃありません。ただの便利屋ですよ」 「あっ、そうですよね。祓うのが専門ではないと聞いています。ええと」  山川は魅入られたように友哉をうっとりと見つめた。 「倉橋さんってきれいですね」 「え? 俺?」 「なんか……後光が差しているみたいで」 「後光? そんなこと初めて言われたな。平凡顔の俺より、あきらの方がイケメンだって女性にすごくモテるけど」 「イケメン……」  山川は俺を振り返り、少し瞬きした。 「ああ、確かにこちらはモデルさんみたいですけど、でも、倉橋さんはちょっと次元が違うというか……」 「じげん?」  友哉はまったく意味が分からないというように、首を傾げる。  さっきの幻覚騒ぎからして、ここは特別に色々と見えやすい場所なんだろう。  ほとんど霊力の無い人間のくせに、山川は友哉の特異な清浄さを感じ取ってしまったらしい。 「あの、倉橋さん。もしよかったら手を握っても?」 「え?」 「えっと、私と、あ、握手をしていただいても……」 「はぁ、別にかまいませんけど」  友哉が右手を出す前に、俺は二人の間に割って入ってぐいっと山川の手を握った。 「どうも。便利屋の相棒をしている久豆葉あきらです。よろしくー」  俺は自分の体で友哉を隠し、山川の目をまっすぐに見つめた。口角を引き上げて、瞳に力を込め、魅力的に見える角度で魅力的に見える形に微笑んで見せる。  山川は俺の顔を見上げ、突然ポカンと口を開いた。  一瞬前まで友哉に興味を持っていたことなど忘れたように、ぽうっとのぼせたような目になって俺を見つめてくる。 「……久豆葉あきらさん」 「うん、なに? 俺の顔に何かついてる?」 「はい……い、いいえ……とても綺麗な方だと思って」  俺はニッと笑った。 「よく言われるー。でも、もう暑いからさっさと始めようよ。アパートの鍵持ってきたんでしょ」  山川はがしっと両手で俺の肩をつかんできた。 「あきらさん恋人はいますか」 「……は?」 「良かったら今日、お食事でも」 「え、ちょっと」 「私はこんなに美しい人を初めて見ました」 「はは、それもよく言われるけども」 「せめて連絡先を教えてもらえませんか」  この炎天下で頭がイカレちゃったわけではない。  この山川という男、こういう『力』との相性が良すぎるんだ。  友哉から意識をそらすだけで良かったのに、俺の力の影響を予想外に強く受けてしまったらしい。
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