2-(3) 選択肢

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 相手はどうして俺達を、あきらを閉じ込めて攻撃してくるんだろう?  たとえあきらが人間じゃないとしても、目も口も鼻もあって話も出来て、泣いたり笑ったりする優しい心もちゃんとあるのに。 「ねぇ、友哉。俺は体も大きくなったし、力も強くなったし、これからは俺が友哉を守りたい。俺にどーんとまかせてくれていいよ」  あきらは大げさに自分の胸を叩いて見せた。 「いや、そんな、まかせられないって。なんか心配すぎる」 「えええー」  あきらが子供みたいに口を尖らせる。 「俺、今、ちょっと良いこと言わなかった? ここは感動するところじゃない?」  めちゃくちゃ心配している俺の気も知らないで、あきらはまた能天気なことを言っている。 「はいはい、分かった、チョー感動した」 「うわなんか、おざなり」 「そんなことないって、これからはあきらを頼りにするよ」 「ほんとだよ。友哉が俺を守るんじゃなくて、俺が友哉を守るから」 「はいはい。ああほら、青春ドラマっぽいセリフはもういいから。遅いからもう寝よう。寝不足で山道はきついだろ、つか俺がきつい」 「うー、分かった。じゃ、おやすみ」 「おやすみ。寝坊すんなよ」 「寝てたら起こして、お兄ちゃん」 「こんなときばっかりお兄ちゃんって言うな」 「はぁーーーい」 「はい伸ばし過ぎ」 「はいはい」 「はいは一回」 「さっき、友哉もはいはいって言ったー」 「え、言ったか?」 「言ったよー。でも分かった。はい、おやすみー」  あきらは笑いながら部屋を出て行った。  急に部屋の中が静まり返って、俺はくたっとベッドに倒れ込んだ。  感情の起伏が大きい一日だったから何だかひどく疲れていて、お札三つ分の空白が出来た壁をぼんやりと見上げる。そのままベッドの上でぼうっとしていると、さっきのあきらの子供っぽいしゃべり方が思い出されてきて、知らずクスクスと口から笑いが漏れていた。  あきらは、やっぱりあきらだ。  悩むのもバカらしい。  たとえあきらが何者だとしても、結局何も変わりはしないんだ。  俺にとってあきらは親友で戦友で兄弟で、バカ話が好きでゲームが好きでいつも笑っていて、ちっとも怖くなんかない。  この先もずっと、俺はあきらのそばにいるだろう。  俺の心の中には最初から、あきらから離れるという選択肢は存在しないのだから。
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