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2-(4) 特別な力
木漏れ日に照らされて、あきらの髪が時々きらりと光る。
ざくざくと土を踏みしめながら、俺は濃い緑の香りを吸い込んだ。
一乃峰の整備されたハイキングコースを四人で歩いていく。あきら以外の誰かと出掛けるなんて、小学校の遠足以来だ。遊びに行くわけじゃないと頭では分かっていても、俺はどこか気持ちがふわふわと浮ついていた。
「でも、びっくりしたよー。ミコッチがくるなんて、すっごいサプライズ!」
あきらは興奮を隠さず、はしゃいだ声を出して御子神の肩をパンパンと叩いた。
「俺も久豆葉ちゃんとやっと一緒に遊べて嬉しい! けどこれサプライズだったの、倉橋クン?」
面白そうに俺を見てくる御子神は、学校にいる時とは違って長い髪を下ろしていて別人みたいだった。派手な色のパーカーと、あちこちにファスナーが付いた黒いズボンがよく似合っている。
「いや、昨日バタバタしていて、あきらに言うのを忘れたんだ」
10分休みの御子神からの忠告に始まり、部室棟前に集まったファンらの異常な狂信、俺の母さんの信じられない奇行、そして……木箱とお札とあきらについて。
一日中、感情があっちへこっちへと振り切れてしまって、昨夜の俺はひどく疲れてしまっていた。
「いいじゃん、サプライズってことで。なんか遠足みたいで俺はチョー嬉しい」
あきらが笑いかけるので、俺もうなずいて笑い返した。
今朝の母さんは、昨夜のことを何も覚えていないかのようにいつも通りの母さんだった。俺達に大きなおにぎりを三個ずつ持たせてくれて、気を付けてと母親らしい笑顔を見せていた。あきらの言う通り、まだ家出をしなくても大丈夫そうだったので、俺は少しほっとしていた。
「今日は何が起こるか分かりませんから、信頼できる人がもうひとり増えるのは嬉しいですね」
吉野はいかにも登山に慣れたような恰好で、胸とウエストにベルトが付いている大きなリュックを背負っていた。
「この蛇型の道切りが二人を閉じ込めている元凶なら、かなり大掛かりなまじないです。御前市を覆うように境界線を張り巡らせるなんて、もしかしたら相手は一人や二人じゃないのかもしれませんよ」
「何ですか、大掛かりなまじないって。敵は陰陽師デスカ祈祷師デスカ?」
御子神は敬語を使っているが、その声にはからかうような響きが含まれている。
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