2-(4) 特別な力

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 吉野は御子神の態度を気にした様子もなく、大真面目に答えた。 「相手が何者なのか僕には分かりません。でももし、境界線を引いた者がいるのなら、誰が何のためにそんなものを仕掛けたのかをはっきりと解明しないといけません。たとえ道切りをはずして外に出られたとしても、また新たな境界線を引かれてしまったら、そこから出られなくなる可能性だってあるんですから」  真剣に答える吉野に気圧されたように一歩下がり、御子神は真面目な顔をした。 「吉野さんは、倉橋の言う『あれ』とかいうものを信じているんですか」 「もちろんです。実際に僕も『あれ』に噛みつかれましたから」  と、吉野は手の甲の傷を御子神に見せる。  御子神は眉間にしわを寄せて、その傷をまじまじと見つめた。 「御子神君は、信じられませんか?」 「いえ……。1年D組の奴らがおかしくなったのは間違いないです。久豆葉ちゃんのファンも行き過ぎっていうか、学校で何かが起こっているのは本当だと思っています」 「何かが起こっているのは学校の中だけではないかもしれません。気付きましたか? 今日すれ違った誰も彼もが、じっと久豆葉君をみつめていくんです」  吉野につられるようにあきらに視線をやると、あきらは困ったように顔を伏せた。 「それからもうひとつ、僕達から10メートルくらい後ろを歩く女の人達、最初は二人組だったのに少しずつ人数が増えて、今では7、8人に増えていますよね」 「え……」  振り向こうとするあきらの顔を押さえて、前を向かせる。 「あきらは目を合わせるな。キャーキャー騒がれると困る」 「う、うん」 「そうですね。目を合わさない方がいい。まだ増えていく可能性もありますから」  さーっと涼しい風が通り過ぎて、周囲の木々がさわさわと音を立てた。今年は平年より梅雨入りが遅くて、枝と枝の間から見える空は青く透き通っていて、遠くからかわいい鳥の声まで聞こえてくる。  こんなに素敵なハイキング日和なのに、俺達の周囲はどこか不穏な空気に包まれていた。
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