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俺はリュックから、父さんのゴルフ用の帽子とサングラスを取り出す。
「あきら、これつけてみろ」
「サングラス?」
「ああ、気休めにはなるだろ」
あきらがそれを身に着けると、御子神がぷっと小さく笑った。
「ミコッチ、笑うなよ」
「あーまー、何というか、絶妙に微妙で」
「ちょっとそれどういう意味」
「はは、コントの衣装みたいだな」
「えー、友哉がつけろって言ったくせにー」
「まぁまぁ、でも確実に女性の視線は減らせそうですよ」
そう言いながら、吉野までくすくすと笑いだした。
あきらが顔を赤らめ、サングラスを外そうとする。
「ああ、取るな取るな。ファンに取り囲まれたら進めなくなるだろ」
「我慢してぇ、久豆葉ちゃーん」
「うー、みんなひどいよ!」
恥ずかしさから逃げるようにズンズン進んでいくあきらを、笑いながら追いかける。
また優しい風が吹いて、木々を鳴らした。
「そういやオカルト研究部の部長をしているってことは、吉野さんはもしかして視える人だったりします?」
御子神の問いに吉野は首を振った。
「いいえ、まったく。御子神君は?」
「俺もぜんぜんですケド。お前らは?」
俺とあきらも首を振る。
「あきらは『あれ』の気配を感じるし、俺も『あれ』が来ると空気がゆらゆらしているように見えるけど、それ以外は何も」
「ほかに幽霊とか妖怪とかは?」
「一度も見たことが無い」
「なーんだ」
「露骨にがっかりするなよ」
「いやちょっとオカルト研究部という響きには、いろいろ期待しちゃうだろ」
「『あれ』だけで十分に怖いだろうが」
「怖さを求めているんじゃないんだって。霊能力とか超能力みたいな、こう、なんというか特別感というか」
「ミコッチは特別だよ」
あきらがサングラスの下で、満面の笑顔を見せる。
「俺が特別?」
「うん。ミコッチも吉野さんも特別だと思う。学校の中で俺に普通に接してくれるのは、友哉以外に二人だけだもん。それってすごく特別でしょ?」
御子神は肩をすくめた。
「いやそれって特別なのか? 俺はただオカルトっぽいものに一切縁が無いというだけだぞ」
「逆に言うと、一切縁が無いというのも才能なんじゃないか?」
「才能?」
「不可思議なものを寄せ付けず、干渉を受けないという能力だ」
「はぁ? 倉橋も適当なこと言うなよ」
「いや、俺はけっこう本気で」
「いやいや、不思議なものが見えない能力? そしたら人類の9割9分は同じ能力を持っているだろうが」
「でも一年D組35人の中でおかしくなっていないのは、御子神ひとりだろう?」
「まぁ、それはそうだけど」
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