2-(4) 特別な力

3/5
前へ
/370ページ
次へ
 俺はリュックから、父さんのゴルフ用の帽子とサングラスを取り出す。 「あきら、これつけてみろ」 「サングラス?」 「ああ、気休めにはなるだろ」  あきらがそれを身に着けると、御子神がぷっと小さく笑った。 「ミコッチ、笑うなよ」 「あーまー、何というか、絶妙に微妙で」 「ちょっとそれどういう意味」 「はは、コントの衣装みたいだな」 「えー、友哉がつけろって言ったくせにー」 「まぁまぁ、でも確実に女性の視線は減らせそうですよ」  そう言いながら、吉野までくすくすと笑いだした。  あきらが顔を赤らめ、サングラスを外そうとする。 「ああ、取るな取るな。ファンに取り囲まれたら進めなくなるだろ」 「我慢してぇ、久豆葉ちゃーん」 「うー、みんなひどいよ!」  恥ずかしさから逃げるようにズンズン進んでいくあきらを、笑いながら追いかける。  また優しい風が吹いて、木々を鳴らした。 「そういやオカルト研究部の部長をしているってことは、吉野さんはもしかして視える人だったりします?」  御子神の問いに吉野は首を振った。 「いいえ、まったく。御子神君は?」 「俺もぜんぜんですケド。お前らは?」  俺とあきらも首を振る。 「あきらは『あれ』の気配を感じるし、俺も『あれ』が来ると空気がゆらゆらしているように見えるけど、それ以外は何も」 「ほかに幽霊とか妖怪とかは?」 「一度も見たことが無い」 「なーんだ」 「露骨にがっかりするなよ」 「いやちょっとオカルト研究部という響きには、いろいろ期待しちゃうだろ」 「『あれ』だけで十分に怖いだろうが」 「怖さを求めているんじゃないんだって。霊能力とか超能力みたいな、こう、なんというか特別感というか」 「ミコッチは特別だよ」  あきらがサングラスの下で、満面の笑顔を見せる。 「俺が特別?」 「うん。ミコッチも吉野さんも特別だと思う。学校の中で俺に普通に接してくれるのは、友哉以外に二人だけだもん。それってすごく特別でしょ?」  御子神は肩をすくめた。 「いやそれって特別なのか? 俺はただオカルトっぽいものに一切縁が無いというだけだぞ」 「逆に言うと、一切縁が無いというのも才能なんじゃないか?」 「才能?」 「不可思議なものを寄せ付けず、干渉を受けないという能力だ」 「はぁ? 倉橋も適当なこと言うなよ」 「いや、俺はけっこう本気で」 「いやいや、不思議なものが見えない能力? そしたら人類の9割9分は同じ能力を持っているだろうが」 「でも一年D組35人の中でおかしくなっていないのは、御子神ひとりだろう?」 「まぁ、それはそうだけど」
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加