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2-(5) 最後にこの目で見たものは
艶々とした緑の葉がたくさん茂る木の幹に、藁で出来た蛇がからみついている。色合いが幹とすっかり同化していて、吉野に言われるまで気付かなかった。
「あれが、道切り?」
ハイキングコースより外れた位置にある樹木を指差し、あきらがきょとんとした顔をする。
俺と御子神は顔を見合わせて、次に吉野へ視線を向けた。
「はい、そうです」
吉野が穏やかにうなずく。
「なんというか、想像していたよりもさらに地味だな」
本音が口から漏れ出てしまった。
あきらと俺を閉じ込める大掛かりなマジナイ……の割には、おどろおどろしい雰囲気も無く、雨風にさらされたようにくたびれている。
「じゃぁまぁ取り外してみようよ」
と、あきらが軽い感じで言って、整備されたコースから出て森の中へ行こうとする。
「あきら、待っ」
「わっ」
俺が制止するより早く、あきらは壁にぶつかったように立ち止まった。
「あきら?」
「だめだ、友哉。ここ、境界線上だ」
あきらは両手を前に出して押すような仕草をした。
「はぁ? 境界線って、そんなふわっとした感じなのか? 怪しい雰囲気も何にもないけど? ほんとに通れないのか?」
御子神が疑わし気な顔をして、ざくざくと歩いて行く。俺と吉野もそちらへ近づき、俺だけがあきらと同じ位置で足を止めた。
境界線を通り過ぎた吉野と御子神が、驚いたように振り返る。
「そこからこっちに来られないのか?」
まだ半信半疑の様子で御子神が聞いてくる。
「うん、行けない。ここに空気の壁みたいなものがあって前をふさいでいるんだよ」
「壁は横へずっとつながっている。二か月かけて調べたけれど、境界線に穴は無かった」
俺とあきらが空気の壁を手でなぞる動きは、多分パントマイムでもしているように見えるんだろう。
御子神が眉を寄せて戻ってきて、境界線のあたりでぶんぶんと腕を振り回した。
「いやいや久豆葉ちゃん、壁なんて何にも無いぞ」
「やはり、閉じ込められているのは倉橋君と久豆葉君だけなんでしょうか」
「え、吉野さんは境界線とやらについて全面肯定ですか」
「はい。全面肯定です」
「自分も噛みつかれたから?」
「もちろんそれもありますが、久豆葉君と倉橋君について、いろんな人に話を聞いてみたんです。二人は小・中ともに校外学習や修学旅行に参加していませんし、市内から出たという情報がまったくありませんでした。閉じ込められているというのは本当のことだと判断できます」
あきらが不安そうな顔で俺を見るので、俺は吉野に向き直った。
「俺達を調べたのか」
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