2-(5) 最後にこの目で見たものは

1/5
前へ
/370ページ
次へ

2-(5) 最後にこの目で見たものは

 艶々とした緑の葉がたくさん茂る木の幹に、(わら)で出来た蛇がからみついている。色合いが幹とすっかり同化していて、吉野に言われるまで気付かなかった。 「あれが、道切り?」  ハイキングコースより外れた位置にある樹木を指差し、あきらがきょとんとした顔をする。  俺と御子神は顔を見合わせて、次に吉野へ視線を向けた。 「はい、そうです」  吉野が穏やかにうなずく。 「なんというか、想像していたよりもさらに地味だな」  本音が口から漏れ出てしまった。  あきらと俺を閉じ込める大掛かりなマジナイ……の割には、おどろおどろしい雰囲気も無く、雨風にさらされたようにくたびれている。 「じゃぁまぁ取り外してみようよ」  と、あきらが軽い感じで言って、整備されたコースから出て森の中へ行こうとする。 「あきら、待っ」 「わっ」  俺が制止するより早く、あきらは壁にぶつかったように立ち止まった。 「あきら?」 「だめだ、友哉。ここ、境界線上だ」  あきらは両手を前に出して押すような仕草をした。 「はぁ? 境界線って、そんなふわっとした感じなのか? 怪しい雰囲気も何にもないけど? ほんとに通れないのか?」  御子神が疑わし気な顔をして、ざくざくと歩いて行く。俺と吉野もそちらへ近づき、俺だけがあきらと同じ位置で足を止めた。  境界線を通り過ぎた吉野と御子神が、驚いたように振り返る。 「そこからこっちに来られないのか?」  まだ半信半疑の様子で御子神が聞いてくる。 「うん、行けない。ここに空気の壁みたいなものがあって前をふさいでいるんだよ」 「壁は横へずっとつながっている。二か月かけて調べたけれど、境界線に穴は無かった」  俺とあきらが空気の壁を手でなぞる動きは、多分パントマイムでもしているように見えるんだろう。  御子神が眉を寄せて戻ってきて、境界線のあたりでぶんぶんと腕を振り回した。 「いやいや久豆葉ちゃん、壁なんて何にも無いぞ」 「やはり、閉じ込められているのは倉橋君と久豆葉君だけなんでしょうか」 「え、吉野さんは境界線とやらについて全面肯定ですか」 「はい。全面肯定です」 「自分も噛みつかれたから?」 「もちろんそれもありますが、久豆葉君と倉橋君について、いろんな人に話を聞いてみたんです。二人は小・中ともに校外学習や修学旅行に参加していませんし、市内から出たという情報がまったくありませんでした。閉じ込められているというのは本当のことだと判断できます」  あきらが不安そうな顔で俺を見るので、俺は吉野に向き直った。 「俺達を調べたのか」
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加