2-(5) 最後にこの目で見たものは

3/5
前へ
/370ページ
次へ
「薄くなった」 「うん! 薄くなった!」 「え、まじで?」 「まじ、で…………あー……」 「今度は何だよ」  御子神の手には1メートルほどの細い注連縄(しめなわ)状のものが垂れていた。  あきらががっくりしたように座り込み、俺はその背に手を置いた。 「御子神がそれを取った時、一瞬だけ境界線が薄くなって向こうに行けそうな気がしたんだ。けど、すぐに元に戻ってしまった」 「あーあー、こういうのなんて言うか俺知ってる。ぬかよろこび」  俺が慰めるように帽子頭をぽんぽんと叩くと、あきらは俺の方に手を伸ばした。 「友哉、ひっぱってー」 「はいはい、分かったよっと」  撮影していたスマートフォンをいったん下ろし、吉野はハイキングコースの方に戻って行く。 「御子神君、それをこっちに持ってきてくれますか。詳しく見たいです」 「はいはい、分かったよっと」  御子神は俺の声真似をして、道切りを持って吉野の後に続く。  吉野は指先で怖々道切りを受け取ると、片手を高く上げて垂れ下がるそれを観察した。  あきらもそちらへ駆け寄ると、上から下までじろじろと見始める。 「えー、ただの汚い綱みたい……」  吉野はそれを地面に置くと、編まれている藁を端からほぐし始めた。  三人とも無言でそれを見守っていると、中から3センチくらいの白い欠片が見えてくる。 「これは何でしょうか?」  全員の視線が白い欠片に集中する。  吉野がぽそりと呟いた。 「あ……もしかして骨?」  吉野を残し、俺達はざざーっと数メートル離れた。 「な、な、まさか人の骨とか言わないよな!」  今まで先輩の吉野には敬語を使っていたのに、とうとう御子神の言葉もため口になってしまった。 「ん-、人か動物かの区別は僕にはできません」  吉野は自分のリュックからジッパー付きのビニール袋を出して、ほぐした藁と白い欠片を入れた。 「御子神君、これ預かってもらえますか」 「はぁ、また俺?」 「ええ、僕は少し怖いので」 「吉野さん……あんた実はイイ性格してるよね」 「ああ、それ何度か言われたことがあります」  悪びれない吉野からビニール袋を受け取り、文句を言いながらも御子神はそれを自分のリュックに突っ込んだ。昨日会ったばかりなのだが、もうすっかり御子神という奴が分かった気がする。こいつはずいぶんとお人好しだ。 「では、次に行きましょうか」 「まだ実験するの?」  あきらが首を傾げる。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加