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「薄くなった」
「うん! 薄くなった!」
「え、まじで?」
「まじ、で…………あー……」
「今度は何だよ」
御子神の手には1メートルほどの細い注連縄状のものが垂れていた。
あきらががっくりしたように座り込み、俺はその背に手を置いた。
「御子神がそれを取った時、一瞬だけ境界線が薄くなって向こうに行けそうな気がしたんだ。けど、すぐに元に戻ってしまった」
「あーあー、こういうのなんて言うか俺知ってる。ぬかよろこび」
俺が慰めるように帽子頭をぽんぽんと叩くと、あきらは俺の方に手を伸ばした。
「友哉、ひっぱってー」
「はいはい、分かったよっと」
撮影していたスマートフォンをいったん下ろし、吉野はハイキングコースの方に戻って行く。
「御子神君、それをこっちに持ってきてくれますか。詳しく見たいです」
「はいはい、分かったよっと」
御子神は俺の声真似をして、道切りを持って吉野の後に続く。
吉野は指先で怖々道切りを受け取ると、片手を高く上げて垂れ下がるそれを観察した。
あきらもそちらへ駆け寄ると、上から下までじろじろと見始める。
「えー、ただの汚い綱みたい……」
吉野はそれを地面に置くと、編まれている藁を端からほぐし始めた。
三人とも無言でそれを見守っていると、中から3センチくらいの白い欠片が見えてくる。
「これは何でしょうか?」
全員の視線が白い欠片に集中する。
吉野がぽそりと呟いた。
「あ……もしかして骨?」
吉野を残し、俺達はざざーっと数メートル離れた。
「な、な、まさか人の骨とか言わないよな!」
今まで先輩の吉野には敬語を使っていたのに、とうとう御子神の言葉もため口になってしまった。
「ん-、人か動物かの区別は僕にはできません」
吉野は自分のリュックからジッパー付きのビニール袋を出して、ほぐした藁と白い欠片を入れた。
「御子神君、これ預かってもらえますか」
「はぁ、また俺?」
「ええ、僕は少し怖いので」
「吉野さん……あんた実はイイ性格してるよね」
「ああ、それ何度か言われたことがあります」
悪びれない吉野からビニール袋を受け取り、文句を言いながらも御子神はそれを自分のリュックに突っ込んだ。昨日会ったばかりなのだが、もうすっかり御子神という奴が分かった気がする。こいつはずいぶんとお人好しだ。
「では、次に行きましょうか」
「まだ実験するの?」
あきらが首を傾げる。
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