2-(5) 最後にこの目で見たものは

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「ええ、ひとつはずしただけで境界線が薄くなったのなら、ふたつ、みっつとはずしていけばもっと薄くなるかもしれません」 「おお! じゃぁ俺達、境界線を突破できる?」 「どうでしょう。でも試してみる価値はあると思います」  吉野の言った通り、二つ目、三つ目とはずしていくにつれて、境界線の存在感がわずかずつだが薄くなっていくのを感じた。もしかしたら今日中に、線を越えられるかもしれない。  希望が目の前にぶら下がり、俺もあきらも少し興奮していた。 「なぁあきら、次は境界線が元に戻る前に、思い切って向こう側へ突っ込んでみようか」 「それいいね! じゃぁミコッチ、いちにのさんで取ってくれる? 同時に飛び込んでみるから」 「了解! じゃぁ取るぞ! いち、にの、」 「「「さん!」」」  御子神の声に合わせて、俺達は思いっきり前へ走った。  柔らかな綿の幕を破るように、わずかな抵抗を払いのけて外へ飛び出す。  俺とあきらは、境界線の向こう側へ、初めの一歩を踏み出した。大きく胸が高鳴る。 「あきら!」 「友哉! やったー!」 「やっと出られ……」  手を取り合って発した歓喜の声は、突然の唸るような獣の鳴き声にかき消された。  遠吠えだ。 「え、え、なに、何の声……!」  あきらが怯えた顔で俺の腕をつかむ。  その腕に鳥肌がたっているのが見え、次に自分の肌も粟立っている事に気付く。  すぐ間近で犬のような遠吠えが聞こえる。それに呼応するように、少し離れた場所から遠吠えが聞こえ、またそれに応えるようにもう少し遠くから聞こえてくる。  少しずつ遠い場所へリレーするように、いくつもいくつも声が聞こえ出して、やがて遠吠えの大合唱になっていく。 「遠吠えがいっぱい……怖い……」  あきらが両手で耳を押さえる。 「すごい、何十匹いるんでしょうか」  吉野も不安そうに空を見上げる。 「おい、どうした。境界線を出られたんじゃないのか? お前らなんでそんな顔をしているんだ?」  いくつもいくつも重なって響き合うものすごい数の遠吠え。  なのに御子神は、はずした道切りを持ったまま不思議そうに俺達を見ていた。 「聞こえないのか? すごい数の遠吠えだぞ!」 「遠吠え? いや、何も聞こえないぞ」  御子神には聞こえない。  つまりこれは、本物の犬の遠吠えではないということか。  こちらの世界のものではないということか。
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