(1) 友哉の目に見えるもの

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「あきら、大丈夫か」  俺達の会話を聞いていて、友哉が心配そうに手を伸ばしてきた。  俺が望まない相手に言い寄られるのは日常茶飯事なんだけど、友哉はそのたびに心配してくれる。  友哉の指先が山川の腕に触れ、山川が俺の肩をつかんでいることが分かると友哉の目がつりあがる。 「山川さん? あきらから手を離してください」 「え、なに」 「いいから離してください!」  非力な友哉がいくら力を込めても成人男性の腕を引き剥がすことは出来ない。でも、山川はその迫力に押されるように手を離して一歩下がった。  友哉が俺の前に出て、庇うように後ろ手で押さえてくる。  客観的に見ると、身長178センチの俺と163センチの友哉を見比べて、華奢な友哉が長身の俺を庇おうとするのは不思議に見えるかもしれない。でも、5歳の頃からずっと友哉は俺を守ってきたし、今でも俺は友哉に守られている。 「ねぇ、山川さん」  友哉の頭越しに呼びかける。 「はい、あきらさん……」  山川はうっとりと返事する。  俺はアパートの方を見て確認した。やっぱりたくさんの影が動いて見える。つまり、あれらはさっきの八尺様のように、誰かの幻覚が具現化したものなのかも知れない。 「例の104号室に入ったことある?」 「いいえ。実は他の社員がここの担当だったのですが、体調を崩して急遽私に代わったんです」 「ああ、やっぱり」 「やっぱりとは?」 「だから無事だったんだなと思って」 「だから、無事?」 「山川さんみたいな人はね、あそこへ入っちゃいけない。幻覚の世界から戻れなくなっちゃうから」 「え……」 「7人目になりたくなかったら、今日はもう帰ろうねってこと」
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