2-(5) 最後にこの目で見たものは

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「友哉……」  俺の腕をつかんだあきらの手が震えている。  違う、震えているのは俺の方か?  暗い雲が立ち込めた空が、ゆらゆらと歪んで見える。  俺は気付いた。  いる。  あそこに巨大な何かがいる。 「遠吠えで呼んでいるんだ……」 「え……」 「境界線が破られたことを、知らせているんだ」  近づいて来る空気の歪みは見上げるほどに大きい。  体がすくんで動けない。 「逃げろ……あきら……」 「う、動けないよ……」 「あきら」  ダメだ、あきら、そこにいちゃいけない。  近づいて来る。  巨大な何かが、近づいて来る。 ―― 吞み込まれる……!  俺は無我夢中であきらの背中を突き飛ばした。 「友哉!」  あきらが悲鳴のように俺を呼んだ。  境界線の向こうへあきらが倒れるのがスローモーションのようにゆっくりと見える。  最後にこの目で見たものは、必死にこちらへ手を伸ばす蒼ざめたあきらの顔だった。  次の瞬間、俺は『あれ』に頭から吞み込まれ、ぷつりとすべてが闇に包まれた。
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