3-(1) 友哉が隣にいないと

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3-(1) 友哉が隣にいないと

 何にも気付かないふりをして、友哉に甘えている時間が一番幸せだった。  市内から出られなくても、『あれ』の襲撃を受け続けても、それでも俺は幸せだった。  いつでも友哉が(かば)ってくれたし、俺を必死で守ろうとする友哉を見ているのが大好きだったから。  でも、『あれ』はますます強くなって友哉を痛めつけていくし、(へそ)()の封印が解かれてからは俺自身の力も抑えきれなくなってきていた。  危ういバランスを保っていた日常が少しずつ崩れ始めていたというのに、それでも俺は友哉の前で弱いふりを続けていた。積極的に力を使えばもっと出来ることがあったはずなのに。 「友哉! 友哉……!」  突き飛ばされて結界の中に戻ってしまった。  道切りをはずした一瞬だけ強度が落ちたそれも、もう復活してしまって俺を通さない。 「くそ! 出せ! ここから出せよ!」  こんなことなら、結界なんてさっさと壊してしまえば良かった。  いつまでも友哉に甘えていたくて、俺は力の無いただの人間のふりをずっと続けてきた。そのせいで、一番恐ろしい結果を招いてしまったんだ。  すぐそこに友哉が倒れているのに、壁に阻まれて近づくことすら出来ない。 「友哉! 大丈夫、友哉!」  俺が呼んでいるのに友哉は返事をしない。  その体が黒い(もや)のようなものに覆われていく。  不自然な姿勢で倒れたまま、まつ毛も指先もピクリとも動かない。  そばに帽子とサングラスが落ちていた。  さっきまで、俺はそっち側にいたのに。 「倉橋!」  ミコッチが駆け寄り、友哉の頬をぺちぺちと叩く。とたんに黒い靄がすぅっと薄らぐ。 「倉橋、倉橋、おい返事しろって!」 「ミコッチ! 友哉は?!」  ミコッチは指先を友哉の鼻に近づけ、次にその首すじに指を当てて脈を診ると、さっと血の気の引いた顔をした。 「息をしていない」  ひうっと喉から声が漏れた。  ぐらりと視界が揺れる。
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