3-(1) 友哉が隣にいないと

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 ミコッチは素早く友哉の体からリュックをはずすと、そっとあおむけに寝かせた。 「友哉、嘘だろ、友哉……!」 「久豆葉ちゃん、救急車っ」  ミコッチに鋭く言われ、俺は慌てて自分のスマートフォンを出して119番を押した。数回のコール音の後に出た相手に聞かれるまま、動揺しながらも必死で受け答えする。 「はい、はい、15歳男性です。一乃峰のハイキングコースで倒れて……い、息を……息をしていなくて……」  スマートフォンに向かって話す自分の声が、どこか遠くから聞こえるみたいだ。  友哉が息をしていない?  そんなはずがない。だって友哉は俺と一緒にいるって、ずっと一緒に戦うって言ってくれて……。  ぐらぐらする視界の中でミコッチは友哉の胸に両手を重ねて乗せると、ぐいっと力を加え始めた。 「いち、に、さん、し、ご、ろく……」 「……は、はい、今、友達が心臓マッサージ、みたいなのをしていて……。ああ、あ、あの、三乃峰側の出口が近いです。そっちへ来てください」  しどろもどろになりながら、電話の向こうに訴える。 「はい、はい、お願いします」  震える指で通話を切ってスマートフォンをポケットに戻す。  俺はちゃんと日本語を話していたか?  この状況は現実なのか?  悪夢を見ているみたいで、現実感が無さ過ぎる。  友哉が死にそうだっていうのに、俺はどうしてこっち側にいるんだ?  ミコッチは数えながら胸を圧迫して30までいくと、友哉の鼻をつまんで口に息を吹き込んだ。そうするとまた黒い靄が消えていく。ミコッチはまた数えながら胸の圧迫を始めた。 「いち、に、さん、し、……」 「友哉、友哉、息をして……!」  すぐそこにいるのに、叫んでも届かない。 「俺を置いていかないで……!」  すぐそこにいるのに、その体に縋りつくことも出来ない。  巨大なものが襲い掛かって来るのが分かったのに、体がすくんで動けなかった。  俺が友哉を守るつもりだったのに、結局俺はまた守られてしまった。 「ともやぁ……」  息が苦しい。  胸が苦しい。  友哉を失う恐怖で、指先が冷たくなっていく。
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