3-(1) 友哉が隣にいないと

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  どんな大掛かりなマジナイでも、数の暴力には負けるということらしい。 数百人にまで膨れ上がった協力者のおかげで結界は跡形もなく消え去り、俺は一切の抵抗なくその外へと脱出できた。道切りに仕込まれていた骨をことごとく砕かせたおかげか、今回は遠吠えも聞こえてこない。  十年以上出られなかった『外』を歩いているというのに、今の俺にはひとかけらの感慨も湧いてこなかった。隣に友哉がいなければ、どんな出来事も砂みたいに味気ない。  雨は大降りになってきて、俺はびしょ濡れになって先を急いだ。三乃峰側のハイキングコース入り口の駐車場で、人が乗っている車を探す。  エンジンがかかったままの一台の紺色の車に近づき、運転席の窓をコツコツと叩くと、窓が開いて若い男が顔を見せた。 「何だよ?」  警戒心いっぱいの顔だ。 「急いでいるんだけど、乗せてくれない?」 「は? なんで知り合いでも無いお前なんかを……。俺は彼女を待っているだけだ、あっち行け」 「そう? 本当にあっち行ってもいいのかな?」 「え……」  俺は男の目をじっと見て優しく微笑んでみせる。  男がぽかんと口を開けて、俺を見た。  ああ、この男は簡単そうだ。 「久豆葉あきらが、せっかく乗ってあげるって言ってるんだよ。乗せなくてもいいのかな? ねぇ? あなたは乗せたくなるんじゃないかなぁ?」  思った通り、すぐに男の目はトロンと溶けた。 「あ……そうだね、乗って欲しいかも……乗ってください、どうぞ」 「どうも」  俺は助手席に乗り込むと、すぐ男に指示した。 「じゃぁすぐ出発して。三乃峰総合病院へ行って」 「うん、三乃峰総合病院だね」  ウィンカーを出して、車が動き始める。俺はシートベルトを閉めながら、ふとバックミラーに若い女が映っているのに気付いた。女はトイレの前で口を開けたまま呆然と立ち尽くしている。 「はは……」  若い女を置いてけぼりにするなんて、友哉ならかわいそうだと言うんだろう。  でも今、俺の隣に友哉はいない。  誰も俺を咎めたりしない。 「急いで」 「うん、分かった。出来るだけ急ぐね」  男は俺を愛しそうに見て、車を走らせていく。  俺はリュックからタオルを出そうとして、奥におにぎりが入っているのに気付いた。いったんそれを取り出そうとして、ふぅと重いため息が漏れる。隣に友哉がいないとぜんぜん食欲がわいてこない。俺はタオルだけ取り出して、濡れた髪を拭き始めた。
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