3-(2) 脅迫状

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「ミコッチ、頼んでいたもの用意してくれた?」  俺は床にリュックを置いて、スマートフォンだけポケットに突っ込んだ。 「ああ。でも久豆葉ちゃん、あんなもの何に使うんだよ」 「脅迫してみようと思って」 「脅迫……?」  瞬きするミコッチの後ろから、友哉の両親がまた質問してくる。 「あきら君、何を言っているんだ?」 「ねぇあきら君、友哉はいったい……」 「黙って」  人差し指を立てると、二人ともぴたっと口を閉じた。  これまで俺は友哉の両親をどうこうする気は無かったんだけど、やっぱり一緒に暮らしていればそれだけ影響は大きくなる。 「おじちゃん、おばちゃん、今は友哉についていてあげて」 「ああ……そうか……友哉に……」 「あきら君が、そう言うなら……」  俺は念を押すように、強く言った。 「うん、俺にはかまわないで(・・・・・・・・・)」 「あきら君にはかまわない……」 「かまわない……」  急に大人しくなった二人の様子を、吉野は怯えた顔で見た。  ミコッチは怪訝な顔をして、二人と俺を見比べる。 「久豆葉ちゃん? 今のは何だ?」 「ミコッチ、吉野部長、とりあえず病室を出よう」  言い置いて、返事も聞かずに病室から出る。 「おい待てって」  後ろから駆け寄って来たミコッチに、ひょいと右手を差し出す。 「ミコッチ、刃物は」 「あ? ああ、吉野さんが登山ナイフを持っていたから借りたけど」  と、俺が差し出した手のひらに鞘付きのナイフが乗せられる。 「サンキュ。で、頑丈な男は?」 「いや、説明しろよ」 「頑丈な男は?」 「お前なぁ……。急に男ひとり用意しろって言われても無理だろ。俺じゃダメなのか? 頑丈と言えば頑丈だぞ」 「うーん、ミコッチには俺の力が効かないし」 「力?」 「ええと、正式には何ていう力なんだろ? 人を思い通りに動かす力?」 「は? なんだそれ、催眠術か」 「んー、近いけどちょっと違うような……」  俺はミコッチの後ろに、怯えるように顔を伏せてついてきている吉野を見た。 「吉野部長、怖かったらもう帰っていいよ」 「え」 「だって、怖いんでしょ、俺のこと」  吉野はぶるぶるっと首を振った。左耳にしがみついている小鬼も一緒に振り回されている。 「怖いのとは違います。いえ……怖いですけど、それより心配なんです」  俺は少し驚きながら、吉野を観察する。   小鬼がひっきりなしに吉野の左耳に何かを囁き続けている。 「吉野部長、今でも左耳に声が聞こえる?」 「え、いえ、今は何も。倉橋君が倒れた時はものすごい大きな声が聞こえたんですけど」 「へぇ……」  吉野の肩の小鬼をつんつんと指先でつつく。 「そっかぁ。この小鬼、弱っちいけど一応仕事しているんだ」
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