3-(2) 脅迫状

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「え、小鬼?がいるんですか?」 「うん、吉野部長の左の肩に乗っているよ」  吉野が左側へ首を向ける。 「ここに?」 「うん、左の耳にしがみついてる」  吉野は首を傾けて左耳に触れたけど、その手は小鬼には触れずにするっとすり抜けた。 「いつから……?」 「いつからって、出会った時からもう取り憑かれていたけど?」 「え、でも久豆葉君は今まで、そんなこと一言も」 「言ったら友哉が怖がるかと思ってさ」  2か月前のあの日……早苗が俺の臍の緒を封じていた箱を開けたあの日から、俺は色々なものが見えるようになった。いわゆる幽霊とか、あやかしとか、そういうものだ。  でも、その全部を見えないふりで放って置いた。友哉に影響がないのなら、特に関心が無かったからだ。 「あの、その小鬼って悪いものなんですか」 「さぁ? 弱いあやかしだからたいした悪さも出来ないけど、常に左耳に囁き続けることで俺の力の影響を弱めているみたいだ。だからずっと、吉野部長は俺の前でも正気だったんだね」 「正気……」  吉野はまた耳に触れた。 「あの、そうするとやっぱりさっきの……友哉君のご両親は正気じゃなかったということでしょうか」 「うん、そうかも。おじちゃんもおばちゃんも、もうほとんど俺の(とりこ)になっちゃった感じだよね。力を抑えるのって難しいなぁ」 「そ、そうなんですか……」  吉野はますます顔色を悪くしたけれど、それでも帰るとは言わなかった。 「久豆葉君、教えてください。一乃峰で言っていた、人間のふりをやめるってどういう意味ですか」 「言葉の通りだけど」 「では久豆葉君は人間ではないとでも?」 「たぶんね」 「たぶん……?」 「あのさぁ? お前らさっきから何言ってんの?」  ミコッチがたまりかねたように口を挟んでくる。 「吉野さんに何かが取り憑いている? 久豆葉ちゃんは人間じゃない? 当たり前みたいに言っているけど、俺にはさっぱり意味不明なんだけど」 「うーん、何なんだろうね。自分でもよく分かんないんだ。でも、早苗さん……俺の叔母さんは失踪する少し前から、酔っぱらうとよく俺に信太(しのだ)の森へ帰れって言ってたんだよ」 「は? 森?」 「え? え? しのだの……? え、じゃぁ久豆葉っていう名前は『葛の葉』と関係あるんですか?」  吉野はオカルト研究部部長だけあって、察しがいい。 「うん。関係あるっていうか、早苗さんはそんな苗字のせいで妖狐に目を付けられたんだって言ってた」 「じ、じゃぁ、久豆葉君は……」 「あははは。別に俺には耳もシッポも生えてないけどね」 「ちょっと待てぃ!」  ミコッチが俺の肩をガシッとつかんでくる。
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