3-(2) 脅迫状

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「俺、話について行けてない。お前らの言うことは何が何だかまったく意味が分かんないんだけど? 久豆葉ちゃん、ちょっと分かりやすく言ってみてよ」 「えーとね、俺のお母さんの名前は『久豆葉ヨウコ』っていうんだ。それって実は人を馬鹿にした名前だったんだよね」 「なんで? 普通の名前だろ」 「ミコッチは安倍晴明って知ってる?」 「知ってるケド? いや、今そんな話をしてるんじゃ」 「安倍晴明のお母さんって、信太の森に棲む『葛の葉』っていう名前の妖狐なんだって」 「ヨーコ?」 「狐のあやかし」 「……は?」 「別に俺と安倍晴明には何の関係も無いんだけどさ。俺のお母さんは『葛の葉』に音が似ている久豆葉家に入り込んで、しかも『ヨウコ』という名前を名乗っていた。つまりネタバレしつつ騙していたというか」 「はぁ?」 「だから、『私は狐のあやかしです』って名乗りながら人間のふりをしていたというか」 「はぁ?」 「分かりやすく言うと、そんなお母さんの血を引いている俺は、もしかして人類の敵かな、みたいな」 「はぁ~?」  ミコッチはチンピラみたいに姿勢を悪くして、下から睨みつけて来た。 「ミコッチ、ハーハーうるさい」 「そんな中二病設定、受け入れられるか!」 「ミコッチも十分にこの中二病世界の住人だよー。才能あるって友哉に言われたでしょ」 「才能? なんの才能だよ」 「不可思議なものを寄せ付けず、干渉を受けないという能力。つまりゼロの能力」 「無能みたいに言うな」 「いやいやすごい能力だよー」 「なんで倉橋が大変な時に、そんなふざけていられるんだよ」 「ふざけてなんか無いからだよ。俺は全部本気なんだ」 「本気って……」 「ミコッチ、あの時すごい冷静だったね。人工呼吸とかして」 「あ、ああ。小中ずっとボーイスカウトに入っていて講習もあったから」 「そっか。ミコッチの息は『あれ』の呪いを中和してた。ミコッチがあの場にいなかったら多分友哉は死んでたよ」  ミコッチが息を吹き込むたびに、黒い(もや)が消えていった。俺の目には、まるで呪いの残滓を振り払っていくかのように見えた。 「あんなの、普通の救命行為だろ?」  ミコッチは理解できないものを見る目で、俺を見ている。 「ミコッチが信じていなくても、俺はミコッチの力に感謝してる」  納得いかないという顔をして、それでもミコッチは後ろからついてくる。  話している内に、俺達は一階のロビーに再び戻って来ていた。    ロビー内には受付のスタッフも含めて十数人しかいない。 「さて、頑丈そうな人いるかなー? ここ病院だから、病人ばっかりだよね」
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