3-(2) 脅迫状

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「おい、本気か。やめろ……!」  その時、別の10代の少年が画面に入って来たが、あっという間に大人数人に連れ出された。 「やめ……!」  叫び声は中断され、モゴモゴとくぐもった声が聞こえてくる。  若い男の腕からは血が溢れて伝い始め、指先からぽたぽたと流れ落ちていく。  痛そうな表情も見せず、あまりにもあっけらかんと切ったため、それは本物の血には見えなかった。  だが、撮影者のものと思われるハァハァとした息づかいが裏側に流れていて、妙にリアルさを感じる。 「お兄さん。次は首も切れるかな?」 「はい、首も切ります」  男がまた躊躇うことなくナイフを自分の首に向ける。 「や、やめろって……!」 「おっと、ストップ」  さっき連れ出された少年の声がして、それに重ねるように端正な少年が制止の声を出した。 「あはは、ごめんごめん。ちょっと止めるの遅かったね。ちょっぴり首が切れちゃった」  若い男の首からつーっと赤い液体が伝い落ちていく。  その時、女性の悲鳴が背後で小さく聞こえた。  とたんに、周囲がざわざわとし始める。 「あらら、ちょっと騒がしくなってきちゃった」  少年はふっと真剣な顔になって、睨むようにまっすぐ正面を向いた。  画面の向こう側から、不思議な迫力が伝わってくる。 「ねぇ、分かってる? 俺の身代わりになってトモヤが死にかけている。トモヤが死んだら、この病院にいる人全員死んじゃうから。それから次に三乃峰の街へ出て、目があった人を全員自殺させるよ。何十人でも、何百人でも。その中にあんたらの大事な人が混じっていないといいけどね。俺、本気だよ。犠牲者を出したくなかったら、隠れていないでここに来なよ」  撮影者が震えているという演出なのか、画面がカタカタと揺れ始める。  少年は急に表情を変え、にぱっと笑った。 「あっ、実はこれ、自主制作映画のプロモーションです。ぜーんぶ作りものだから、通報しないでねー。バイバイ!」  2分52秒の短い動画は、そこでプツッと終了した。
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