3-(3) 独占欲

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3-(3) 独占欲

 ロビーでの流血騒ぎに集まってきた医師や看護師を次々に篭絡(ろうらく)して、俺は友哉を一人部屋に移動するように命令した。  中でも一番偉そうにしていた初老の男に全力で笑いかけたら、面白いくらいに力が効いてしまって俺を神様みたいに(あが)(たてまつ)り始めちゃったので、ちょっと笑えた。  濡れた服を着ていた俺には新品の着替えを用意してくれたし、友哉の入院費用も全部持ってもらえることになったんだけど、あんなに堂々と職権乱用しちゃって、あのお偉いさんはこの後大丈夫なんだろうか。  ベッドの格差はちょっとえぐいくらいだった。  俺は友哉のそばでゆっくりしたかっただけだから、一人部屋の豪華さにはちょっとびっくりしていた。  さっきまで友哉が寝かされていた6人部屋の倍以上の広さがあって、大きなベッドのほかにソファやテーブルまでもが置いてあって、洗面所やトイレもついている。  まるでホテルみたいな室内の中で、友哉につながれた点滴の管と、ピッピッと小さな音を出している心電図モニターの機械だけが病室だということを思い出させた。  俺はふかふかのベッドの端に腰を下ろして、友哉を見下ろす。 「友哉」  呼びかけても答えが無いのは分かっている。  この病院で一番腕の良い医者ってやつに担当を変えさせたけど、友哉の病状は良くも悪くもならなかった。どこにも怪我が無くて、内臓にも悪いところは無くて、ウィルス性の発熱でもなくて、まったくの原因不明。  やっぱり友哉の体を蝕んでいるのは『あれ』なんだと、それではっきりと分かった。友哉を治せるのは医者じゃないんだ。 「脅迫状、まだ届かないのかなぁ……」  俺はソファのある方へ顔を向けた。  三人掛けのソファに友哉の両親、テーブルを挟んで一人掛けのソファに吉野、窓際の柱に寄り掛かるようにしてミコッチが立っていた。日暮れにはまだ早いけど、雨のせいで窓の外は薄暗い。 「いえ、すごい反響ですよ」  と、吉野はスマートフォンに目を落とす。 「ついさっきアップしたばかりなのに、怖いくらいに見られています。コメントも、もう100件以上殺到していて、その自主映画はどこで見られるのかとか、この男の子は誰なのかとか、綺麗とか好きとか会いたいとか……あと本物か分かりませんけど芸能事務所みたいなところからもいくつか連絡が来ています」 「ふうん……」  今のところハズレばかりか。  あんな子供だましの脅し動画ではなくて、本物の集団自殺でも起こしてやれば気が付くのかなぁ。  でも、人殺しまでしてしまうと、確実に友哉に嫌われるし……。 「久豆葉ちゃん、再度説明を要求する」
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