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ミコッチは不機嫌さを隠さずに俺を睨んだ。
あの若い男に腕を切らせることにも反対していたし、無料で友哉を個室に移動させるのにも反対していた。こんなことは犯罪じゃないかと正論を吐いていたけれど、俺がむりやりに全部を押し通したので怒っているのだ。
「ええー、だから言ったじゃん。俺には人に言うことを聞いてもらう力があってぇ」
「それはもう分かったよ。あんなもん見せつけられたからには、もう認めるしかない。久豆葉ちゃんには『力』ってやつがある」
「じゃぁ、何を聞きたいの?」
「今までもそうやって、何もかも自分の思い通りにしてきたのか」
「ううん。こんなに思いっきり力を使ったのは今日が初めて。友哉の前ではずっとただの人間のふりをしていたし」
「じゃぁD組のやつらは? 全員おかしくなっているよな?」
「あー、あれは無意識」
「無意識?」
「うん、知らない内に力が漏れちゃってたというか……知らない内に支配しちゃってたというか。学校のファンクラブとかいうのもそうだし、そこの友哉のおじちゃんとおばちゃんもそう」
俺がソファの方を指差すと、ミコッチもそちらを向いた。
二人は仲良くソファに腰掛けて、ポヤンとした目で上の方を見ている。
いつも以上にぼんやりしているのは、さっき『俺にかまうな』と強く言いすぎたせいかもしれない。
「元に戻らないのか」
「戻るよ。俺から遠く離れて、しばらくすれば」
「どのくらいの距離で、どのくらいの時間離れればいい?」
「うーん、個人差があるみたいだからよく分かんない」
ミコッチは何か考えるみたいに口を引き結んだ。
いつもふざけた口調で話すミコッチが、妙に真剣な顔で話をするから変な感じだ。
「そんな顔しなくても、これこそミコッチの求めていた特別感ってやつじゃん。楽しんでよ」
「楽しめるか。こんなガチなの望んでない。いったい何なんだよ、俺の世界がどんどん人外魔境みたいになっていく」
「あはは。だから言ったでしょ。俺は人類の敵だって」
「これからどうするつもりだ。人類の敵らしく世界征服でもするのかよ」
「まさか。友哉が回復したらまた一緒に高校行って、友哉が大学に行くなら一緒の大学に入って、友哉が就職するなら一緒の会社に入るつもりだよ」
「倉橋の意思は無視するのか?」
「友哉は俺を大事に思ってるから、喜んでくれるに決まってるじゃん。俺と友哉は一生一緒にいるんだよ」
俺は眠る友哉の顔を覗き込んだ。
穏やかで安らかな寝顔だけど、触れると異常に体温が高い。
早く目を開けて俺を見て欲しい。
俺を見て、ニコッと笑って欲しい。
「一生一緒って……。久豆葉ちゃんは倉橋をどうしたいんだ?」
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