3-(3) 独占欲

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 ミコッチの声はイラ立っていた。  普通の人間はちょっと見つめただけで思い通りになる奴ばかりだから、イラ立った声を向けられるのは何だか新鮮だ。 「どうって……別にどうにもしないけど。今まで通りに、俺のお兄ちゃんでいてもらうだけ」 「ほんとにそれだけか?」 「なんで?」 「倉橋に彼女が出来たらどうするんだ? 二人のデートについていくつもりか? 倉橋が結婚したら? 子供が出来たら? それでも一生つきまとうつもりなのか」 「やだなぁ、友哉に彼女なんて出来ないよ」 「なんでそんなこと断言できるんだよ。倉橋は優しいからけっこうモテるだろ」 「だって俺が邪魔するもん」 「は……?」 「今までだって、ぜーんぶ邪魔してきたんだ。友哉に近寄る女の子はみんな俺を好きになってくれたよ」 「おま……」  『絶句』という言葉の見本みたいに絶句して、ミコッチは唇をわななかせた。 「独占欲の塊は、お前の方かよ……」  その時、吉野が小さく声を上げた。 「あ、あの、久豆葉君。御前(みさき)市のことがネットニュースになっているんですが」 「ニュース?」 「さっきのあれか? 銃刀法違反とか傷害とか?」 「い、いえ、そうじゃなくて、この大雨の中で女性ばかり何十人もの行方不明者が出ているらしくて。その中の何人かは一乃峰や鹿塚山へ行くと周囲に言っていたみたいで、今、捜索隊が出される騒ぎになっていて……。こ、これって、もしかして久豆葉君が……」 「あー、まだ山で道切りを探している子がそんなにいるんだー。参っちゃうね」 「参っちゃうね、じゃねぇよ! 放っておく気か?」 「うー、ミコッチって実は怒りっぽい人?」 「俺はまともだ。非常識なのはお前の頭の中だっつの!」 「やっぱり怒りっぽいじゃん」  俺は自分のスマートフォンを吉野に渡した。 「もう道切りは探さなくていいってメッセージ流してくれる?」 「は、はい」  ミコッチは頭をガリガリとかいた。  そしてぎろりと睨んできた。 「久豆葉ちゃん、これから何をどうするつもりなのかをちゃんと教えてくれ」 「友哉は『あれ』にやられたんだから、『あれ』を作った奴にしかきっと助けられないんだ。だからさっきの脅迫状動画で、そいつを……そいつ()かな? そいつらをおびき出すつもり」 「来ると思うか」 「もし来なかったら、俺、大量殺人鬼になっちゃうね」 「本気で病院内の人間を全員殺す気か」 「まぁ直接殺すんじゃなくて集団自殺させるつもりなんだけど」 「同じことだろうが!」  ミコッチはバシンと柱を叩いた。
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