3-(3) 独占欲

4/6
前へ
/370ページ
次へ
「久豆葉ちゃんがそんなことしたら、倉橋が悲しむだろ」 「友哉が生きている内は何もしないよ。でも、もしも死んじゃったら悲しむも何も無いでしょ」 「お前、ちゃんと分かっているか? この病院にいる人には何の罪も無いんだぞ」 「だから?」 「は?」 「罪があろうが無かろうが、そんなのどうでもいいよ。赤の他人に対しては、何の感情も湧いてこないし」 「な……」  目を見開いて、ミコッチは少しの間、思考停止したみたいに固まっていた。そして、はぁーっとすごく長い息を吐いた。 「俺は久豆葉ちゃんの言っていることが、ひとつも理解できない……」 「ん-。もしもの時は、俺を殺して止めたらいいんじゃない? さっきのナイフ、まだ持ってるでしょ。ミコッチだけは多分、俺を殺せるよ」  ミコッチはゆるゆると首を振った。 「お前と俺を一緒にするな。友達をそう簡単に殺せるわけがないだろ」 「あはは、まだ友達と思ってくれるの」 「当たり前だ」 「そっかー……ミコッチって、いいやつだね」  ミコッチは泣きそうな変な顔して俺を見た。 「倉橋にも同じことを言われたよ」  盛大に溜息を吐いて、諦めたような顔をしてミコッチが窓の外を見る。  そして急に、何かに気付いたように窓ガラスに両手をついた。 「なんだあれ」 「なにー?」 「どうしたんですか?」  吉野が窓に駆け寄り、あっと声を上げた。 「すごい……。何百人いるんでしょうか」  友哉のそばから離れて、俺も窓の外を覗き込んだ。  群衆が見えた。  病院前の小さなターミナルも、その向こうに見える駐車場も、さらにその先の一般道路にも人が溢れている。雨の中、傘もささずに男も女も大人も子供もぞろぞろと正面玄関に向かって来ていた。 「はは、インターネットってすごいんだねー」 「さっきの、あの動画を見た人達ですか?」 「たぶんね」 「これが……久豆葉ちゃんの力か。3分にも満たない動画でこれほどの騒ぎになるなんて」  俺は病室の窓を開けて身を乗り出し、群衆を見下ろした。  雨が顔にかかってくるのを気にせず、両手を上げた。 「おーい」  軽く手を振っただけで、うわーっとものすごい歓声が上がる。 「みんなここだよー、おいでおいで」  窓から俺が手招きすると、玄関に向かって群衆がどっと走り出すのが見えた。 「わー、戦国ゲームみたいだー、すごいすごい」  手を叩く俺の腕を、ミコッチがぐいと押さえた。 「何でこっちに呼ぶんだよ」 「ボディーガードになってもらうためだよ。ええと、肉壁ってやつ」 「肉壁? すげぇこと言い出したな」
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加