(2)わたし、カリン、今あなたの後ろにいるの

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 俺に強い日差しの眩しさは感じられないけれど、顔や腕をじりじりと焼く熱は感じられる。  きっと、前を歩くあきらの薄茶の髪は陽の光を反射してキラキラしているだろう。気遣うように何度も振り返るその顔は、俺の記憶の中よりも大人っぽくなっているんだろう。 「あー、友哉、日に焼けちゃったね。鼻が赤い」 「そっか? 油断してたよ。すぐ建物に入ると思っていたから」 「俺もー。駐車場で時間取られるなんて思わなかったー」  笑いながら進み、すぐにあきらは足を止めた。 「ここちょっと段差を上がるね」 「分かった」  段差を超えると、砂利の駐車場からアパートの敷地のコンクリートへ入ったらしく、足元が平らになった。  さらに進むと肌に感じる痛みがふっと消えた。 「あ、日陰に入った?」 「うん、ぜんぜん違うね。息がしやすーい」 「部屋の中はクーラー使えるのか」 「ガス・水道・電気は使えるようになっているって、帰る前に山川さんが」 「そうか」 「うん。とりえずガキ開けるよ」 「ああ」  ガチャリと音がしてあきらが少し下がってくるから、俺も一緒に後退りする。外開きの扉をいっぱいに開けたらしく、もわんとする空気が流れて来た。 「ドアはこのまま全開にしておくね」  閉め切られて淀んでいた空気の中へ、二人で一緒に入って行く。  突然、びくっとあきらの体が硬直した。 「あきら?」 「大雅、(おぼろ)……!」  呼ばれた二匹が俺達の方へ走ってくる。 「どうした?」 「友哉、6人の幽霊はどこにいるの?」  焦るような緊張した声。  相変わらずあきらは幽霊が苦手らしい。 「まずそこにパジャマ姿の若い女の子がひとり」  俺は右の方を指で示す。かなり近い距離に、背を向けてうずくまり、スマートフォンを耳に当てている子が見える。 「6畳の洋間だね。ほかには?」  俺は前を指差す。 「このずっと奥の方に制服を着た女の子が二人いる」  二人は寄り添いあっていて、やはり手にスマートフォンを持っているようだ。 「リビングダイニングになっているところかな。え……友哉?」 「なんだ」 「そんな、友哉!……うわっ!」  俺達のすぐ前で大雅がびょんとジャンプした。あきらが急に抱きついてきて、俺の体をぐいっと後ろへ押した。 「おわ、何だよ急に」 「ごめん……!」  低い声で謝るくせに、あきらは体を離そうとしない。
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