3-(3) 独占欲

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 唖然と俺を見るミコッチの腕をはずして、俺は友哉のそばへ戻った。 「ええとね。ほら見て。友哉が俺を庇って出来た傷」  俺は薄い布団をめくって、友哉が着せられているペラペラの水色の患者服をはだけさせた。『あれ』によるくっきりとした歯の跡が、体中にいくつも散っている。  近付いてきた吉野がハッと両手で口を覆った。 「いつも俺を庇うから、背中はもっとひどいんだよ」  俺は友哉の体を少し起こして、ミコッチにその背中を見せた。  ミコッチがごくっと息を呑む。 「俺達を攻撃してくる『あれ』はね、壁や天井はすり抜けるけど人間の体はすり抜けないんだ。友哉はいつも俺の盾になって、自分の体で半分以上『あれ』の攻撃を受けてくれていたんだよ」  服を戻して布団をかぶせる。動かされても友哉は静かに眠っていて、ピッピッという機械音だけが室内に響いていく。 「倉橋君……こんなにひどい傷が……? 今までつらそうな素振りも見せたこと無かったのに……」 「倉橋が献身的なのは分かったよ。それとあいつらに何の関係があるんだよ」 「だからね、今度はあの人達に盾になってもらうの。だから、そのための肉壁」 「盾になってもらうって、まるで今から戦いが始まるような言い方だな。倉橋を治してもらうだけじゃないのか」 「俺はそのつもりだけど、相手は十年以上もしつこく攻撃してくる奴らだよ。結界を壊されたからって、それだけで諦めるはずがない」  廊下からドドドドッと地鳴りのような足音が聞こえてくる。どこで名前を知ったのか、あきらくーんと呼ぶ黄色い声まで聞こえてくる。 「すごい勢い……」  吉野が怯えたように呟いた直後、ガラガラッと乱暴にドアが開けられる。  男も女もむりやりに部屋に雪崩れ込もうとするのが見えた時、ビリリと空間に電気が走った。  アッと、俺は悟った。 「やばい、『あれ』が来る!」  とっさに友哉の体に覆いかぶさると同時に、背中に噛みつかれるような激痛が走る。 「ああ!」 「久豆葉ちゃん!?」 ―― しまった……!  こちらが準備する前に攻撃が始まってしまった。  敵の方が、行動が速かった?  違う、あの群衆の中に敵も混じっていたんだ。  それなのに俺は不用意に自分達の居場所を教えてしまった。  友哉の言う通りだ。俺はケンカに慣れていない。 「あきら君、どうしたのー?」 「こっちみてー、あきら君」 「あきらくーん」  俺は群衆に向かって絶叫した。 「守れ! 俺達を守れ! 肉壁になれ!」
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