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こんなにあっさりと両親について教えてくれるとは思わなかった。詳細を聞きたいけど、今は先にやることがある。
「あんたは友哉を助けられるの?」
「倉橋友哉を助ける代わりに死ねと言ったら?」
食い気味に質問されて、俺は小さく笑った。
「何言ってんの。そんな甘ったるい自己犠牲を好むのは、人間だけでしょ」
男がぴくりと眉毛を動かす。
「倉橋友哉が大事なんじゃないのか」
「大事だよ。友哉と一緒にいるためだけに、こんな騒ぎを起こすくらいにね。でもさ、俺が死んで友哉だけ生き残る? 俺がいない世界で、友哉が違う奴と幸せに生きていく? そんなの俺が許すわけないじゃん」
男の目がぎろりと険を帯びる。
俺はそれを無視して、眠る友哉の頬に手のひらを添えた。ひどく熱い。
「俺が死ぬときは、友哉も連れて行くよ。友哉は俺のものだから」
男はふんと鼻を鳴らした。
「ド畜生が」
「狼に言われたくないな」
「大賀見の家の者は狼を畏れ敬い、時には使役するが、その身に獣の血は一滴も流れていない。半分狐のお前とは違う」
「ふうん……」
男の目を覗き込む。
黒くて深くて少し疲れたような目を見ながら、ふんわりと微笑んでやる。
男がぎくりと怯んだように一歩下がった。足が悪いらしく、それだけでよろめいている。
「私を、誘うな……!」
「あはは、もう遅いと思うけど? 俺の目を見て声を聞いて笑いかけられてさ、多分もう抗えなくなってきているんじゃない?」
「化け物め」
悪態は弱く、男は困ったように目を伏せた。
「勘違いしないで。脅迫しているのはこっちなんだ。友哉が助かれば俺はまた人間のふりをしてあげてもいい。友哉が死ねば、もう人間のふりはしない。あんたが選べるのはその二択だけなんだよ」
男は、動きの悪い足を手で支えながら、ぎこちなくその場に跪いた。
「なぁに? もう降伏?」
「ああ、降伏だ……。最後の悪あがきで全力攻撃してみたが、それでもお前を殺せなかった。直接会ってしまったら終わりなのは分かっていたからな」
「そっか……。直接会うことが出来ないから、この十年間、遠くからまどろっこしい攻撃をしてきていたんだね」
「そのまどろっこしい攻撃でも、力の安定しない子供の内にとっくに殺せていたはずだったんだ。まさか、常に半分以上の痛みを引き受ける者がその傍らにいたとはな」
男が、静かに眠る友哉の顔を見下ろす。
友哉が常に庇っていてくれたから、俺は今まで生きてこられたということか。
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