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4-(1) 自覚
あの時、あきらがひとりじゃなくて良かった。
あの時、俺がそばにいられて良かった。
あの時、あきらを守れて本当に良かった。
もしも時間を巻き戻すことが出来て、あの瞬間をやり直すことが出来たとしても、やっぱり俺は同じことをするだろう。
俺の身に降りかかって来た結果は簡単には受け止め切れないくらい恐ろしいことだけれど、でも、それが俺で良かったと思うから。
もしもあきらの目が見えなくなっていたら、俺は自分自身を許せなかっただろうから。
ふわっと浮き上がるように目を覚ました。
まぶたを開いても何も見えなくて、本当に覚めているのかと不安になる。
手のひらを目の前に持ってきてみても、ひらひらと指を動かしてみても、やっぱり何も見えなくて、俺は確認するように小さく声を出してみた。
「俺は、目が見えない」
大丈夫、意外と冷静だ。
まだはっきりと現実感が無いせいかもしれないけれど。
あきらに手をつないでもらって眠りについたのは覚えている。
それからどのくらい経ったんだろう?
ふわふわの布団と肌触りの良いタオルケットをめくって、ゆっくりと体を起こしてみる。
ここは病院では無いような気がした。違和感の正体を知りたくてつい顔を左右に動かしたが、もちろん何も見ることは出来ない。
耳を澄ませてみる。
鳥の声が聞こえる……近くに公園でもあるのか、何種類もの鳥が鳴いている。でも今まで鳥の声なんて意識したことも無いから、それがどんな鳥かまでは分からなかった。
賑やかなさえずりに耳を傾けていると、部屋の中に静かな寝息が流れているのに気付いた。
同じ部屋に誰かが寝ている……?
寝息の音に集中してみて、知らず口元がほころぶ。
その人物の立てる静かな寝息だけで、すぐに誰だか分かったからだ。親よりもずっと長い時間を共に過ごしてきた俺の幼馴染。親友で、戦友で、兄弟みたいな存在を、俺が間違えるはずがない。
「あきら」
つい呼びかけてしまってから、しまったと思って口をふさいだ。
もしかしたらまだすごい早朝かも知れない。思わず首を動かして時計を探してしまったけど、見えないという事実を再認識しただけだった。俺にはこの部屋に時計があるのかどうかも分からないし、あったとしても時刻を知ることが出来ないのだ。
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