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「ええと今は」
多分、時計を見たんだろう。
少しの間があって、
「7時過ぎだから……15時間くらいかな」
とあきらは答えた。
「そっか、いっぱい寝たな」
「うん。体は大丈夫? どっか痛いとか気持ち悪いとか無い?」
声が近付いて来て、あきらの手が俺の腕に触れてくる。俺は反射的に右手でその手をつかんだ。体温を感じたくて思わず両手で包み込む。
「どうしたの?」
「あ、ごめんつい……」
手を離そうとすると、あきらの手がぎゅっと握ってきた。
「謝らないで。いつでも握っていいよ。だって俺達兄弟じゃん」
「うん……」
あきらの手はすごく温かくて、ここにいるんだと実感がわいてきて、なぜかじわっと目が潤んできた。見える見えないに関わらず涙は出るんだと思って、俺はちょっと苦い笑いを漏らした。
「やっぱ、あれだな。毎日見ていた顔が見られないって、結構きついな」
「友哉……。俺もきついよ……友哉と目が合わないのきつい……」
あきらの声が震え出し、握っている手も熱くなってくる。
「うぅ……」
嗚咽が聞こえてきて俺は焦った。
「泣くなよ」
「泣いて、ないよ」
「泣いてるだろ」
「泣いてなんか……ないもん」
俺は握っている手の上から、左手でポンポンと軽く叩いた。
あきらが先に泣いてしまうから、不思議と俺の心は落ち着いていられる。
俺は、あきらの嗚咽がおさまるまで、手を握ったままじっとその泣き声を聞いていた。
「友哉……見えないってことの他に、体に異変は無い?」
少しすすり上げながらあきらが聞いてくる。
「ああ、体は……」
つい自分の体を見下ろしてしまって、真っ黒の視界に溜息が出る。どうしても見えている時と同じように、目や顔を動かしてしまう。慣れるのには相当時間がかかりそうだと思った。
「大丈夫だよ。どこも痛くないし。ただちょっとお腹空いているかも」
「俺もペコペコ。すぐ朝御飯にしてもらうね」
手を離して立ち上がるような気配がして、俺は慌てた。
「待って、あきら。ここってどこなんだ?」
一瞬だけ間をあけて、あきらが答えた。
「うーんと、俺の家ってことになるのかなぁ」
「あきらの家?」
「うんまぁ、一応」
頭の中にハテナマークがいくつも浮かぶ。
あきらには身寄りがいなくて倉橋家に一緒に住んでいたのに、ここがあきらの家とはどういう意味だろう。
「どういうこと? なんでうちに帰らないんだ? 父さんと母さんは?」
今度は数秒、沈黙があった。
「あきら?」
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