4-(1) 自覚

3/5
前へ
/370ページ
次へ
「ええと今は」  多分、時計を見たんだろう。  少しの間があって、 「7時過ぎだから……15時間くらいかな」  とあきらは答えた。 「そっか、いっぱい寝たな」 「うん。体は大丈夫? どっか痛いとか気持ち悪いとか無い?」  声が近付いて来て、あきらの手が俺の腕に触れてくる。俺は反射的に右手でその手をつかんだ。体温を感じたくて思わず両手で包み込む。 「どうしたの?」 「あ、ごめんつい……」  手を離そうとすると、あきらの手がぎゅっと握ってきた。 「謝らないで。いつでも握っていいよ。だって俺達兄弟じゃん」 「うん……」  あきらの手はすごく温かくて、ここにいるんだと実感がわいてきて、なぜかじわっと目が潤んできた。見える見えないに関わらず涙は出るんだと思って、俺はちょっと苦い笑いを漏らした。 「やっぱ、あれだな。毎日見ていた顔が見られないって、結構きついな」 「友哉……。俺もきついよ……友哉と目が合わないのきつい……」  あきらの声が震え出し、握っている手も熱くなってくる。 「うぅ……」  嗚咽が聞こえてきて俺は焦った。 「泣くなよ」 「泣いて、ないよ」 「泣いてるだろ」 「泣いてなんか……ないもん」  俺は握っている手の上から、左手でポンポンと軽く叩いた。  あきらが先に泣いてしまうから、不思議と俺の心は落ち着いていられる。  俺は、あきらの嗚咽がおさまるまで、手を握ったままじっとその泣き声を聞いていた。 「友哉……見えないってことの他に、体に異変は無い?」  少しすすり上げながらあきらが聞いてくる。 「ああ、体は……」  つい自分の体を見下ろしてしまって、真っ黒の視界に溜息が出る。どうしても見えている時と同じように、目や顔を動かしてしまう。慣れるのには相当時間がかかりそうだと思った。 「大丈夫だよ。どこも痛くないし。ただちょっとお腹空いているかも」 「俺もペコペコ。すぐ朝御飯にしてもらうね」  手を離して立ち上がるような気配がして、俺は慌てた。 「待って、あきら。ここってどこなんだ?」  一瞬だけ間をあけて、あきらが答えた。 「うーんと、俺の家ってことになるのかなぁ」 「あきらの家?」 「うんまぁ、一応」  頭の中にハテナマークがいくつも浮かぶ。  あきらには身寄りがいなくて倉橋家に一緒に住んでいたのに、ここがあきらの家とはどういう意味だろう。 「どういうこと? なんでうちに帰らないんだ? 父さんと母さんは?」  今度は数秒、沈黙があった。 「あきら?」
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加