4-(1) 自覚

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「俺、昨日おじちゃんに抱きつかれたんだ。それでむりやり服を脱がされそうになって」 「え!?」 「友哉には……言いたくなかったけど」 「そんな……」  血の気が引く。  父さんまでもおかしくなっていたなんて。 「それで? あきらは大丈夫だったのか?」 「うん、突き飛ばして逃げたから」 「そうか……」  安堵の息とともに大きな不安が沸き上がる。  両親ともにおかしくなったのなら、もうあの家には戻れない。  でも俺は今、こんな状態になってしまって、一緒にいるとあきらの負担になってしまうんじゃ……。 「大丈夫、ここは安全だよ。俺と友哉を脅かすものは何も無いから安心して」 「でも」 「友哉が寝ている間に何があったのか、後でゆっくり説明するから。まずはパジャマのままでいいから顔洗って朝御飯にしない?」  あきらは立ち上がって俺の手を引っ張った。 「ほら、立って。まずは洗面所に案内するからさ」  スタンッと音を立てて障子が開け放たれたのが分かる。 「こっちだよー」  あきらがぐいぐいと俺を引っ張ってどこかへ行こうとする。  体が前へ倒れそうになる。  どこへ足をついていいのか分からない。  ぞわっと恐怖が走った。 「わっ、待って! 待って、あきら!」  俺はあきらの手を振り払った。 「え、どしたの?」 「あ……ごめん。あぁ……なんか……」  片手で自分の顔を押さえる。 「ほんとごめん。でも、俺……あぁ、嘘だろ……」 「友哉?」  あきらの声がきょとんとしている。  俺だって自分が信じられない。  たったあれだけで身が縮むようだった。  いかに今まで視力に頼って生きてきたのかを、否応なく思い知った。  言いたくないけど、言わなければ伝わらない。 「ごめん。俺、歩くのが怖い」 「え……」  自分がこんなにも憶病者だったなんて思わなかった。  ただ暗闇を歩くだけのことで、こんなに恐怖を感じるなんて。 「俺は友哉を危ないところへ連れて行ったりしないよ」 「分かってる。あきらを疑うはずがない。でも、完全な暗闇で知らない場所を歩くのはすげぇ怖い。ビビっちゃって、体がすくむ」  自分の家だったらまだましだったかもしれないけど、あきらの前ではそんなことを言えない。父さんも母さんもあきらをおかしな目で見ているんだ。あんな親はもう頼れない。  すぅ、はぁ、と何度が深呼吸する。 「だ、大丈夫だ。もう一回、歩いてみる」  こんなことぐらいで一大決心したみたいに言う自分の声が情けない。  あきらはどんな顔で俺を見ているんだろう。 「うん、分かった。ね、友哉、両手を前に出してみて」  言われた通りに両手を出すと、あきらがその両手を握った。
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