4-(1) 自覚

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「えっとね、ここは結構広い日本家屋で、俺達が寝ていたのは中庭に面した八畳の部屋なんだ。で、その隣にも八畳の部屋があるから、部屋の前にある廊下を今から歩くからね。で、突き当りを左に曲がると洗面所とトイレとお風呂があるから。そこまでゆっくり行こう」  俺はこくりとうなずいた。 「めっちゃゆっくりで頼む」 「オッケー、めっちゃゆっくりね」  俺の両手を引きながら、あきらは後ろ向きにそろそろと進んでいく。  俺は足を浮かせるのも怖くて、ずりずりとすり足で進んだ。多分、歩幅は10センチくらいしかない。  両手を引かれて歩きながら、今の自分がどう見えるのか思い浮かべてみた。  あんよがじょうず、あんよがじょうず、と母さんの声が聞こえてきそうな体勢だ。 「俺ってまるで赤ちゃんだよな……」  あまりに自分が情けなくて、またじわりと涙が滲んでくる。  でも、それが(しずく)になる前にあきらがすすり上げるのが聞こえてきて、すっと涙が引っ込んだ。 「あきら、俺より先に泣くなよ」 「泣いて、ない……」 「あきらってこんなに泣き虫だったっけ?」 「だから、泣いてないって」  否定する声が震えてしまっている。  俺より先に、俺のために泣く親友がいる。  倉橋友哉という男は本当に幸せ者だと思う。  顔を上げて微笑んでみた。  目を合わせることは出来ないけど、あきらはちゃんと目の前にいる。 「俺、これからもあきらのそばにいていいのか」 「当たり前じゃん。一生そばにいてよ」  間髪入れずに言われて、ちょっと笑ってしまう。 「ははっ、一生は大げさだな」 「そんなことないよ! 俺は友哉と死ぬまで一緒にいる、死んでからも一緒にいるもん」 「ええ、何だよそれ」 「友哉。死んだら俺と一緒に地獄へ行こうね」 「おい、なんで地獄一択なんだよ」 「えー、面白そうだから?」 「むちゃくちゃだな、あきらは」 「だって、鬼とかいて楽しそうじゃんか」  くだらないことを言われて笑ったら、なんだかちょっと気が楽になった。  どんなに暗い夜道でも、あきらと二人で行くなら怖くないのかもしれない。  ひとりじゃなくて良かった。  あきらがそばにいてくれて良かった。  つないだ手の温かさがじんわりと心に染みてきた。
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