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頭の中に、昔見た映画のおどろおどろしい画面がいくつも思い浮かんでくる。
怪しげな旧家に伝わる古の呪い。
血で血を洗う醜い後継者争い。
狙われる美形の主人公。
「まじか。まんまホラー映画だ」
「うん……。ほんと、まんまホラーだよね。今までのこと全部が俺の……俺の血筋ってやつのせいだったんだ。そのせいで、ずっと怖い思いをして……今だってこんなひどい目に……。おじさんに言われたんだ。病院で精密検査してみるけれど、友哉の目はもう治らないだろうって。体じゃなくて、魂が傷付いたことによる失明だから、治しようがないって……」
魂を傷付けられたことによる失明という説明は、幼いころからずっと怪異にさらされてきた俺にはすんなりと受け入れられた。
「ごめん友哉、謝って許されることじゃないけど、何もかも俺のせいで……」
悲痛な声で言われてなんだか妙な気持ちになった。
十年以上も御前市から出られなくて、何度も何度も『あれ』に襲われて、今は視力までも失くしてしまった。これはどこからどう見ても、恐ろしくて理不尽な悲劇だ。
けれど、それでも俺は……。
「なんかさ、確かに怖いけど、でも……なんか違うっていうか」
「違う?」
俺とあきらは、そういうのじゃない。俺とあきらがいる世界は、悲劇でもホラーでもない。
俺はあきらを守りたくて守ったんだから、この結果はあきらのせいなんかじゃない。
「ええと、ホラー映画ってさ、主人公がどんなにあがいてもどんどんどんどん最悪のバッドエンドへ突き進んでいくだろ。でも、俺達は違うと思う」
つないでいてくれるあきらの手を、きゅっと強く握る。
「うまく言えないけど、あきらと一緒にいるだけで、俺の人生はぜんぜんホラーじゃなかったよ。子供の頃から怖いことよりも楽しい時間の方がずっとずっと多かったし、これからだってきっと楽しいことがいっぱいある。俺達の人生は怖いだけじゃない。それだけは断言できるよ。だって俺は、あきらといるだけで楽しいから。あきらだってそうだろ?」
「うん……俺も友哉といるだけで楽しい……」
「ほらな。二人一緒にいるだけで楽しいんだからさ、もう俺達最強だろ?」
「…………」
目の前にいるはずのあきらの反応が無くて、俺は途惑った。
「あれ? あきら、聞いてたか?」
すぐ近くで、すはぁっと息を吸い込む音が聞こえた。
「もー!」
「え?」
「とーもーやー!」
あきらは大声で俺の名前を叫ぶなり、背中と膝裏にぐいっと手を入れて俺を持ち上げた。
「え、ちょ、待て! あきら!」
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