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あきらは俺を抱っこしたままドスドスと進んでいく。
「あきら、こら降ろせって!」
「だーめ! 暴れると落っことしちゃうよー!」
笑いながらあきらはスピードを上げていく。
「嘘だろ、おい、うわわわ」
思わずあきらにしがみついてしまい、お姫様抱っこのまま運ばれてしまった。そのままダイニングに入って椅子に座らされ、ナプキンを首から下げられる。
「くさいセリフを真顔で言わないでよ、もー!」
「いやいや照れ隠しに抱っこすんなよ!」
「抱きついてキスした方が良かった?」
「何言ってんだよ、ふざけすぎだろ」
あはははと高い声であきらが笑う。
つられて俺も笑ってしまった。
やっぱり、俺とあきらじゃホラーにならない。
「はぁ……でもなんか地味にショックだな」
「ナプキンは俺もつけてるよ。ナイフとフォークで食べるの苦手で」
と、あきらは自分の首から胸元を触らせてきた。
「いや、それじゃなくてあんなに軽々と持ち上げられたから」
「筋トレしてるって言ったじゃん。俺強くなったよ、いつでも抱っこしてあげられる」
「いや、だめだ。抱っこは禁止だ」
「えーなんで? 楽ちんでしょ?」
「だめだ。心のHPが減っていく」
「ええ! そこまでのこと?」
「男にはプライドというものがあってだな」
「ははー、それはそれは失礼いたしました」
「うわなんか馬鹿にしてる?」
「してないしてない。友哉がヒョロイなんて言ってない」
「言ってるだろ。いいよ、俺も筋トレする! そしてあきらを抱っこしてやる!」
「おお、それはちょっと楽しみかも」
「何で嬉しそうなんだよ」
「友哉に抱っこされたら嬉しいじゃん」
「無理だと思ってるんだろ」
「違うってー」
軽口を言い合っていると、カチャリとドアを開ける音がして誰かが入って来た。反射的にそちらに顔を向けるが、もちろん見ることは出来ない。
「先に来ていたのか、待たせたね」
低くて渋い声がして、少し引きずるような足音が近づいて来る。もしかしたら足が悪いのだろうか。
「友哉。この人が俺の親戚のおじさん。せっ……えっとー、おじさんの名前なんだっけ?」
「大賀見雪彦だ。空から降る雪に彦星の彦。雪彦と呼んでくれ」
「あ、よろしくお願いします」
立ち上がって頭を下げようとして、ふと気付いた。
「大賀見……?」
覚えのある名前だ。
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