4-(2) あきらがいるだけで

3/6
前へ
/370ページ
次へ
 あきらは俺を抱っこしたままドスドスと進んでいく。 「あきら、こら降ろせって!」 「だーめ! 暴れると落っことしちゃうよー!」  笑いながらあきらはスピードを上げていく。 「嘘だろ、おい、うわわわ」  思わずあきらにしがみついてしまい、お姫様抱っこのまま運ばれてしまった。そのままダイニングに入って椅子に座らされ、ナプキンを首から下げられる。 「くさいセリフを真顔で言わないでよ、もー!」 「いやいや照れ隠しに抱っこすんなよ!」 「抱きついてキスした方が良かった?」 「何言ってんだよ、ふざけすぎだろ」  あはははと高い声であきらが笑う。  つられて俺も笑ってしまった。  やっぱり、俺とあきらじゃホラーにならない。 「はぁ……でもなんか地味にショックだな」 「ナプキンは俺もつけてるよ。ナイフとフォークで食べるの苦手で」  と、あきらは自分の首から胸元を触らせてきた。 「いや、それじゃなくてあんなに軽々と持ち上げられたから」 「筋トレしてるって言ったじゃん。俺強くなったよ、いつでも抱っこしてあげられる」 「いや、だめだ。抱っこは禁止だ」 「えーなんで? 楽ちんでしょ?」 「だめだ。心のHPが減っていく」 「ええ! そこまでのこと?」 「男にはプライドというものがあってだな」 「ははー、それはそれは失礼いたしました」 「うわなんか馬鹿にしてる?」 「してないしてない。友哉がヒョロイなんて言ってない」 「言ってるだろ。いいよ、俺も筋トレする! そしてあきらを抱っこしてやる!」 「おお、それはちょっと楽しみかも」 「何で嬉しそうなんだよ」 「友哉に抱っこされたら嬉しいじゃん」 「無理だと思ってるんだろ」 「違うってー」  軽口を言い合っていると、カチャリとドアを開ける音がして誰かが入って来た。反射的にそちらに顔を向けるが、もちろん見ることは出来ない。 「先に来ていたのか、待たせたね」  低くて渋い声がして、少し引きずるような足音が近づいて来る。もしかしたら足が悪いのだろうか。 「友哉。この人が俺の親戚のおじさん。せっ……えっとー、おじさんの名前なんだっけ?」 「大賀見(おおがみ)雪彦だ。空から降る雪に彦星の彦。雪彦と呼んでくれ」 「あ、よろしくお願いします」  立ち上がって頭を下げようとして、ふと気付いた。 「大賀見……?」  覚えのある名前だ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加