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長い食事の間に、雪彦とあきらが昨日あったことを説明してくれた。
俺が一乃峰で倒れて救急車で三乃峰病院へ運ばれた後、あきらはファンクラブの人達に協力してもらってすべての道切りをはずしたという。
遠吠えと一緒に現れたあの巨大な呪いはすべて俺が引き受けたので、ファンクラブの人達には何も起こらなかったとあきらは言った。
そして俺を追いかけて病院へ駆けつけたあきらと、たまたま通院していた雪彦が出会ったのだという。
「あれは運命だね。一目でそれと分かったよ。あきらは大賀見の当主大賀見道孝に生き写しなんだ」
雪彦が映画のセリフみたいに渋い声で言った。
すぐに当主に連絡をして息子だと分かったらしい。そしてあきらの今までの人生を聞いて、一族の誰かが呪っている事に気付いたのだという。
「あきらだけでなく君にまでも、怖くてつらい思いをさせてしまったね」
代々伝わる呪いがあるような古い家の人だからか、雪彦は怪異の存在を当たり前のように口にしていた。
「もうあんなことは起こらないはずだ。あきらのことは法律上の認知はせず跡継ぎにもしないと親族に対して当主がきっぱり告げたそうだから」
「そうですか……」
跡継ぎにもしないし、認知もしない。それは、あきらが後継者争いに巻き込まれないようにというためなんだろうけど、あまりに父親の情が薄い気がしてどこかモヤモヤしてしまう。
「友哉くん。君の視力を奪ったのは、大賀見の家の者に違いない。どれほど詫びても取り返しがつかないが、療養にかかる費用はすべてこちらで持つし、これからの生活も保障する」
「あ……」
「安心しなさい。君の両親ともきちんと話をしておくから」
「はい、ありがとうございます」
雪彦にそう言われて、俺は今起こっていることを受け止めるのに必死で、これからのことなど全く考えていなかった事に気付いた。
父さんも母さんもあきらに対しておかしくなってしまった今、俺に帰る家は無い。学校にも行けないだろうし、大学受験もその先の就職も、一から考え直さなければいけない。
将来について深く考えたことも無くて、大学は行けたら行こうなんてぼんやりとしたことを言っていたのがずっと昔みたいだ。
「ここはあきらの家でもあり、君の家でもある。遠慮はいらない。必要なものは何でも言ってくれ」
「はい……」
雪彦の声は温かかくて、ほっとする。
ここであきらと暮らせるのは、正直嬉しかった。
「ありがとうございます」
深く頭を下げると、雪彦が近付いて来てそっと俺の肩に手を置いた。
「今まであきらを守ってくれて、ありがとう」
低く穏やかな声でそう言われ、ふわりと心が軽くなる。
大賀見とかいう得体の知れない家の中で、少なくともこの男の人はあきらの味方なんだと思って安心した。
俺は顔を上げて雪彦がいる方にニコッと微笑みを向けた。
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