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「そんなの分からない。友哉が俺を道連れにしてくれたらいいんだけど……。優しい友哉がそんなことするはずも無いから、俺は人間をやめて人類の敵らしく世界を滅亡させちゃおうかな」
冗談半分で言ってみたが、雪華は静かに俺を見返しただけだった。
俺も本気でそんなことが出来るとは思っていない。でも、うまくやれば町を一つ壊滅させるくらいはできるかもしれない。
「そうなったら雪華はどうすんの? 俺を退治する?」
「私はこうして直接あきらと会ってしまった。私にはもうあきらを殺せない」
「ふうん、俺の力ってそんなに強いの?」
雪華は重々しくうなずいた。
「あきらは5歳になる頃にはすでに周囲に影響を及ぼし始め、その存在が大賀見家の脅威になると当主に判断された。だが、始末するよう命じられても誰一人として直接手を下すことは出来なかった。いざ殺そうとナイフを振りかざした時にはもう、あきらの虜になってしまっているからだ。それで苦肉の策として、狼の骨を使った道切りによって隔離し、離れた場所から襲うという迂遠な方法が取られたんだ」
「当主って、俺の父親だよね」
「ああ」
「実の息子を殺すってことを、そんな簡単に決断できるものなの?」
「あの方の心の中までは計り知れないが、当主という立場上、大賀見家の存続が第一なのだろう。だから、あきらの力が予想よりはるかに大きいことを知って、討伐から懐柔へとあっさりと方針を変え、私を貢物として差し出したのだ」
「雪華は抵抗しなかったの?」
「当主の一言で、一族の持つ20匹以上の狼が動く。私の2匹だけでは抵抗どころか、逃げることもかなわない。従うしかなかった」
「ふうん」
「今はそれで良かったと思っている」
「ふうん」
「本当だ」
それが雪華の本心なのか、俺の力に言わされているのか、きっと本人にも分からない。
「それじゃお母さ……俺の母親は?」
「逃げたそうだ」
「お母さんも殺されそうだったの?」
「いや……あきらの力が強すぎて、恐れをなして逃げたと聞いた。妖狐の親子はもともと子離れ親離れが早いものらしいが、それは妖狐というあやかしには強く異性を惹き付けてしまう特性があるためだ。子供がある程度成長してしまうと、あー、つまり親子の間で良くないことが起こりかねないらしい」
「近親相姦しちゃうってこと……?」
ひやりと寒気がして、早苗の顔が脳裏に浮かんだ。
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