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「ああ……。あきらの力は自分の手に負えないと思ったんだろう。お前を久豆葉早苗に預けて母親は行方をくらませたと聞いた」
久豆葉早苗。
俺の母になりたいと言ったのに、母になれなかった女の人。生々しい女の情欲を、何も知らなかった俺に教えた女の人。哀れで悲しい女の人だ。
俺は自嘲気味に口を歪めた。
「母親と交わっても叔母と交わっても罪は同じじゃない?」
「お前と久豆葉早苗の間にもしも何かがあったのだとしても、さほど気にする必要は無い。早苗とお前との間には血のつながりは無いからな」
「ああ……やっぱりそうなんだ……」
早苗が酔っぱらって信太の森へ帰れと叫んだ時に、やっと気付いた。それまで俺は、早苗を自分の血縁だと信じて疑わなかったのだが。
「お前の母親は久豆葉の家に入り込んで自分を長女だと思わせ寄生していた。心を操る妖狐がよくやる手口だ」
「じゃぁ早苗さんは十年以上も赤の他人の子供を育てていたんだね」
「早苗はお前と血がつながっていないが、戸籍の上ではお前の母親ということになっているはずだ。妖狐に戸籍は無いからな」
「ははは、なにそれ。偽物の家族になって寄生されて、戸籍まで使われて子供を押し付けられて。妖狐ってひどすぎない? 早苗さんの家、妖狐に利用されまくってるじゃん」
「妖狐とはそういうものだからな。人の心に入り込んで利用し搾取する。あきらもそうだろう? 今までさんざん久豆葉早苗や倉橋家を利用してきて、さらに友哉君も」
「友哉は違う」
「何が違う」
「俺は友哉を操っていない。友哉が俺にくれる愛情は全部本物だ」
雪華は少し黙った。そしてまた中庭の向こうへ目を向けた。
よほど友哉が気になるようで、その視線にイライラする。
「なぁ、妖狐っていったい何なの? 俺、別に油揚げとか好きじゃないし、耳もシッポも生えていないよ」
「母親の方には、狐の耳とシッポが生えていたそうだぞ」
「ええ?」
中年男のジョークかと思ったが、雪華は当たり前のことのように言葉を続けた。
「当主が、たった一度だけだが異形の姿を見たそうだ。まぁ、あきらは半分人間だから母親とすっかり同じではないのだろうが」
「その内に俺も異形の姿になっちゃうわけ?」
「分からない。私は半妖に会ったのは初めてなんだ」
明確に否定してくれなくて不安になる。
俺に耳やシッポが生えても、友哉は怖がらないだろうか。
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