4-(4) 銀色の影

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4-(4) 銀色の影

 紙をめくるような音がして、目が覚めた。  まぶたを開いてももちろん何も見えない。手を持ち上げて顔の前で揺らしてみても、やっぱり見えない。  分かっていても、また確認してしまった。見えないことが当たり前になるには、どのくらいの時間が必要なんだろう。 「友哉、起きた?」 「ああ。おはよう、あきら」 「おはよ」 「何を読んでいたんだ?」  体を起こしながら聞くとバサバサッと書類のようなものが落ちる音がした。 「読んでるって分かるの?」 「なんかめくるような音がしていたから」 「そっかぁ、すごいね」 「すごくはないだろ」 「でもちょっとびっくりした」  話しながら落ちたものを拾い集めてトントンとまとめているのが分かる。 「あのね、『ガイドヘルプ・きほんのき』っていう本を読んでたんだ」 「ガイドヘルプ?」 「うん、目の不自由な人を案内したりするやり方が書いてあるの」 「やり方って?」 「ちゃんとしたガイドの仕方。っていうか、昨日の俺は色々とやらかしちゃってたみたい。いきなり強く手を引っ張ったり、両手を持って後ろ歩きしたりするのはNGだって書いてある」 「そうなのか?」 「友哉、ごめんね」 「いや……俺も知らなかったし。あれがダメなら、どうするのがいいんだ?」  俺のイメージにあるのは、白い杖か盲導犬くらいだ。身近に目の不自由な人もいなかったし、自分がこうなるまで深く考えたことも無かった。 「じゃぁさっそく洗面所まで基本姿勢で行ってみようよ。立って立って」 「お、おう」  俺は布団から這い出て畳の上に立った。 「俺につかまるの、右手と左手どっちがいい?」 「えっと、右かな」 「そしたら俺は友哉の右前に立つね」  近づく気配があって、あきらに右手をつかまれる。 「ここ、俺の腕つかんで」 「こうか?」 「うん! 見えない人の手を引っ張るんじゃなくて、こういう風につかまってもらうんだって。で、同じ方向を向いて一緒に歩く。これが基本姿勢」 「基本姿勢か」 「そ、これから何十年もこうやって一緒に歩くからね。その第一歩だよ」  あきらが前へ足を踏み出すのが、つかまった腕から伝わってくる。俺もつられるように、一歩前へ踏み出した。 「どう、友哉」  あきらが上半身を動かしてこちらを向いたのも分かる。  俺はあきらの顔のある方へ笑みを向けた。 「腕につかまっているだけで、意外に動きが分かるもんなんだな」 「歩けそう?」
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