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「うん、歩く。けどゆっくりで」
「分かったー。では、コホン」
わざとらしい咳払いをしてから、あきらは突然高らかに宣言した。
「ドラゴンハンター、今日もゆく! 目指すは遥か洗面所、速度はゆっくり、いざ参る!」
ドラゴンハンターのナレーションのセリフだった。
「はるか洗面所って……」
「タラタラララララーン、タララータ、タタラタラー……」
ぽかんとする俺を誘導しながら、あきらはドラゴンハンターのテーマソングを歌い始める。それが笑っちゃうくらいに美声だ。
俺は噴き出しそうになるのをこらえて、あきらについて歩き出した。数歩進んで障子を開く音がして、廊下に出て、左へ曲がる。
あきらはご機嫌で歌い続ける。
俺も一緒になって同じメロディーを口ずさみながら、洗面所までの冒険の道を進んでいった。
「とうちゃーく!」
あきらの声が響いて、行進が止まった。
「もう着いたのか?」
すんなりと歩けて自分でも驚く。
「うん、昨日の3倍は速かったね」
「なんかびっくりだ。あんまり怖くなかった」
「ほんと?」
「ほんとほんと。基本姿勢ってすごいな」
「てれれってれー、友哉とあきらのレベルが上がった」
またゲームの真似をしてあきらが言うから、俺は大きく噴き出した。
「あはは、ほんとだな」
俺もゲームの真似をして言ってみる。
「てれれってれー、友哉はレベルが1上がった。友哉は基本姿勢を覚えた。友哉は度胸が付いた」
あきらの声が嬉しそうに続く。
「あきらはレベルが1上がった。あきらは基本姿勢を覚えた。あきらは歌のレベルが3上がった」
「上がったか?」
「上がった上がった、ローレライくらい」
「船を遭難させちゃダメだろ」
「んじゃセイレーン?」
「ほとんど同じだ」
「同じだっけ?」
「同じだろ?」
「じゃぁ海坊主」
「それもう歌関係ない」
「いや歌う。ひしゃーくでいっぱいつーぎましょかー」
「それって船幽霊じゃなかったか?」
「そうだっけ?」
「やっぱり船沈める気満々だろ」
くだらないことを言いあって笑う。
目が見えなくてもあきらとの距離感が変わらなくて安心する。
「はい、友哉、こぶしコツン」
言われてこぶしを握って宙に掲げる。あきらがそこにコツンと手をぶつけてきた。指同士をぐっと握って、手をパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン、友情の合図。
たとえ見えなくても、十年一緒にやってきたことだから息もぴったりだ。
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