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「友哉は俺のお兄ちゃんで、親友で、戦友」
「だよな」
「うん」
「あきらは何者?」
「俺は友哉の弟で、親友で、戦友で……大賀見家の血を引いている者」
その言い方にドキリとした。
あきらは人間じゃないんじゃないかと思ったことがあるから。
「大賀見家の……」
古の呪いが代々伝わっているような旧家の血のせいだといいたいんだろうか。学校での不気味な出来事や、おかしくなった母さんの様子が、次々と頭の中に蘇ってくる。
あきらは俺の耳に唇を寄せて小さく囁いた。
「俺が怖い?」
俺は腕を伝ってあきらの頭をつかみ、くしゃくしゃとかき回した。
「おわ、なんだよー」
「弟を怖がる兄がいるか。変なこと聞くな」
「あはは、そっかぁ」
「それでこの犬は何なんだよ? 大賀見家と関係があるのか」
「犬じゃないよ、狼だ」
「狼? って日本では絶滅したんじゃ」
「あー、うん、本物の生き物じゃないから」
自分達のことが話題になっていると分かるのか、二匹の狼がこちらを向いて俺の顔を見上げてくる。銀色の毛並みがゆらゆらと揺れていて、少し釣りあがった目は緑色にぼうっと光っていた。
凛々しくて綺麗で立派な狼。
「生き物じゃないなら何だ? 魔物? 妖怪? 精霊?」
「ええと……こいつらは式狼とよばれていて、大賀見家の使う式神みたいなもので、つまり『あれ』と同じもの」
「『あれ』って『あれ』?」
「そう、大賀見家の誰かがこれと同じ式狼を使って俺達を襲わせていたんだって」
その背中に乗れそうなほどのがっしりとした体、太く筋肉質な足、大きな口から覗く鋭い牙。
圧し掛かってきて首を噛み千切ってしまえば、あっという間に人を殺せそうだ。
「こんなすごいものに襲われていたんだ……。こんな立派な牙に噛みつかれて、俺達、よく今まで無事だったよな」
溜息まじりに言うと、ダンッと何かを叩く音がした。
「無事なんかじゃないよ! 友哉の目を奪われただろ!」
いきなり大きな声を出されてびっくりした。
「魂を傷付けられてしまったから、どんなことをしても友哉の目は一生治らないんだ! もう二度と、友哉の目に俺は映らないんだよ!」
あきらの声には、強い怒りが含まれている。
「どうしてそんな平気な顔をしていられるの? 友哉が一番ひどい目にあっているんだよ! 俺は許せない。友哉の目を奪ったやつを許せないよ!」
「あきら……」
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