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俺は自分に起こったすべてのことを、どこか事故や天災のように感じていた。
呪いをかけたという人物も、呪いを受け継いでいたという旧家も、俺には薄ぼんやりとしたイメージしか湧いてこない。そんなぼんやりとしたものを本気で恨んだり憎んだりするだけのエネルギーは俺の中には無くて、あきらの苛烈な怒りにむしろ驚いている。
病院で目覚めて俺が一番に思ったことは、あきらが無事で良かったということ……俺の心の中には怒りよりも大きな安堵があった。
けれど、あきらにとってこれは血縁から受けた無慈悲で理不尽な生々しい暴力なんだろう。あきらの中には、俺と違って本気の怒りが存在している。
「あきら」
「なに」
「変なこと、考えてないよな」
「変なことって?」
「復讐、とか」
数秒間黙った後、ぷっとあきらは噴き出した。
「友哉の口からそんな怖い言葉が出るなんてびっくり。高校生の俺ひとりで何が出来るんだよ。雪彦おじさんが調べても犯人が分からないのに」
その明るい口調にホッとする。
「だってあんなに怒る声を初めて聞いたから」
「怒るよ。めちゃくちゃ怒るよ。だって友哉は目が見えないんだよ。こんなにひどいことをされているのに相手は裁かれることも無い。呪いとか式狼を使ってどんなに悪辣なことをしても、けっして警察に捕まることは無いんだから」
「それは、そうだよな……」
当事者以外に誰が信じるだろう。
呪われたせいで市内に閉じ込められて、式狼に何度も襲われて、さらには視力まで失くしてしまったなんて。
「めちゃくちゃ頭に来るし、絶対に許せないけど、呪った相手が分かったとしても俺は殴りに行ったりしないよ。俺が罪を犯したら、友哉のそばにいられなくなるもん」
「うん……あきらが誰かを傷付けるなんて出来るはずがなかったよな。ごめん、俺こそ変なこと言って」
「ううん。大きな声出してごめん。お腹空いたからご飯食べようよ」
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