4-(4) 銀色の影

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 あきらは俺の手を取って腕につかまらせた。 「はい、基本姿勢」 「了解、基本姿勢」 「目指すは遥かダイニング」 「速度はゆっくり、いざ参る」 「いざ参る!」  俺達が笑って歩き出すと、二匹の狼もその横を歩き出した。 「あれ、ついてくる……」 「ほんとだ。雪彦おじさん、どこまで行ったんだろ? 叢雲、碧空、俺達についてくるのか?」 「それがこの狼たちの名前?」 「うん、こっちが『月に叢雲、花に風』の叢雲で、こっちがええと『紺碧の空』の碧空だよ」 「綺麗な名前だな」 「雪彦おじさんの式狼だから『あれ』とは違って襲って来たりしないよ」 「ああ、あんまり怖く感じない。むしろ綺麗だ」 「触ってみたい?」  あきらが立ち止まったので、俺も足を止めた。 「ちょっと触ってみたいかも」 「呼べば来てくれるよ」  俺はあきらにつかまっている手と反対側の手を差し出してみる。 「叢雲、碧空、こっちへおいで」  すると返事をするように二匹の狼がすり寄って来た。  滑らかな手触りと、少しの冷気。 「うおっ、なんだかひやっとするな」 「うん、普通の生き物じゃないからあったかくはないよね」  銀色の美しい毛並みを見て、俺は少し笑った。 「唯一この目に見えるものがこんなに綺麗な狼なんて、なんだかちょっと嬉しいかも」 「えー、俺は嬉しくない」 「なんで」 「だって、俺を見て欲しいもん。目を合わせて話したいもん」 「俺だってあきらを見たいよ、でも……」 「そうだよね。見えるのがゴキブリとか蜘蛛のお化けだったら毎日悲鳴だしねー」  ひょわっと全身に鳥肌が立つ。 「おまっ、やめろよばか、想像しただけで寒気がしてきた!」 「あははは、ごめんごめん。友哉、虫苦手だったね」 「そうだよ、もうまじでやめろ」 「はーい、やめます。ゴキブリとか蜘蛛とかムカデとか言いません」 「言うなって!」 「ごめんってー。もしも虫が出たら無言で退治してあげるからさ」 「いや無言も怖いだろが」 「えー、どっちだよー」 「宣言して退治、それがいい」 「はーい! ではこれより蜘蛛を一匹退治します!」 「え、え? どこにいる? すぐ近くか?」  思わず両手であきらにしがみつくと、小さな笑い声が聞こえた。 「いや、今のは予行演習」 「あーきーらー」 「あははは、怒んないで」 「そもそもなんで虫の話になっているんだよ」 「えー、なんでだっけ?」  馬鹿馬鹿しいことで言いあっている俺達を叢雲と碧空が見上げている。表情の分かりにくい狼が、なんだか笑っているような気がした。
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