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―― 助けて! 助けてください!
制服姿の女の子が二人、勢いよく走って来て手を伸ばし、スカッとつんのめった。
幽霊は俺達に触われないし、俺達も幽霊には触われない。
目を見開いて俺を見ると、彼女達はさぁっと蒼ざめ、ギャー、イヤー、と叫んで走り出した。でも、突進して行ったかと思うとふっと消えて、反対側からまた戻ってくる。
―― いやー! いやー! 来ないでー!
―― あっちに行ってー!
俺達は一歩も追いかけていないのに、彼女達が勝手にループして近くに走ってくる。
「あ、また壁に突っ込んでった。あ、また反対の壁から戻って来た」
あきらがいちいち実況する。
笑うところではないのは分かっているのだが、彼女達が何度も同じことを繰り返すのでちょっと笑いそうになってしまった。
「落ち着いて、俺達は味方だ。助けに来たんだ」
―― 噓よ!
―― だって触われないじゃない! あなた幽霊でしょ!
「幽霊はそっち……」
「あきら!」
俺はとっさにあきらの腕を叩いた。
手探りであきらの顔を引き寄せ、小声で囁く。
「死んでいる事に気付いていないなら無理に知らせるな。余計にパニックになる」
「うん、分かった」
こそこそと話をする俺達を、二人の女の子がポカンと見ている。
そのひとりの目元にほくろがあるのに気付いた。彼女が遠野芽衣だ。ということは、もうひとりが一緒に行方不明になった中沢瑠衣なのだろう。
―― 男同士で堂々と腕組んでる。
―― カップル?
「いやカップルではないけど」
―― じゃぁなに?
あきらは目の見えない俺に腕を貸しているだけだけど、でもそれを言うと目が見えないのになぜ彼女達二人の姿は見えるのかという疑問につながり、そうすると二人は死んでいるのだと言わなくてはならなくなり、説明がかなり難しくなってしまう。
「ええと……」
答えに窮して、俺は苦し紛れに言った。
「俺達は仲良しなんだ」
嘘は言っていない。
―― 仲良し。
―― 仲良し。
「仲良し」
あきらが横でくくくっと笑いをこらえる。
「仲良しだろ」
「うん、ちょー仲良しだよ」
「俺は友哉、こっちはあきら。君達は?」
女の子達は顔を見合わせる。
―― 私は芽衣。
―― 瑠衣は瑠衣。
「ここで何をしているんだ?」
―― 肝試しに来たの。
「こんなアパートで? 不法侵入だろ」
―― ここに住んでいた友達が去年いなくなったの。
―― ここに来たら何か分かるかもって言われて。
「誰に?」
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