4-(5) どこまで隠すか

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 雪華は友哉に親戚のことや、出身地や先祖のことを聞いていた。友哉はひとつひとつ丁寧に答えているけど、やっぱり式狼が見える理由は分からないようだった。 「失明したことで、第六感でも働くようになったんでしょうか」  飲み終わったお茶の湯呑を手のひらでころころと動かしながら、友哉は首を傾げている。  俺はその手から湯呑を受け取ってコトッとテーブルに置いた。 「あのさ、友哉は子供の頃から『あれ』が見えていたんじゃない? 空気がゆらゆらしているように見えるって言ってたよね」  友哉はハッとした顔をした。 「そっか、あの空気の歪み! 『あれ』の正体は式狼だったんだから、目が見えなくなるずっと前から、俺には式狼がぼんやりと見えていたってことだ」 「空気の歪み?」 「はい。『あれ』に襲われた時にはいつも、ゆらゆらしたものがあきらに取り付いているように見えて、必死に腕を振り回していたんです」 「なるほど」  雪華が顎をさすって何か考えている。 「子供の頃からというと、何歳くらいからか分かるかい?」 「ええと……いつから見えていたんだろ? あきらと出会ったのは5、6歳くらいだった気がするんですけど。だよな?」 「うん、5歳だったよ。初めて出会ったのは家の近くの公園だった。そこで俺は『あれ』に襲われてしまって、友哉が助けようとして俺に飛びついてきたんだ。それで、二人一緒に噛み傷だらけになったんだよ」  友哉は少し口を開けてこっちに顔を向けた。 「へぇ、よく覚えているなぁ」 「そりゃ嬉しかったもん。助けに飛び込んでくれた友哉はヒーローみたいだったから」 「はは、ヒーローって大げさだな」 「俺にとってはヒーローだったの! 今でもはっきりと覚えてる。俺は嬉しくてお礼がしたくて、でも何も持っていなかったから、血の出ている友哉の腕を舐めてあげたんだ。そしたら、友哉もお返しに俺の手の傷を舐めてくれたんだよ」 「舐めた?」 「うん、舐めた」 「犬みたいに?」 「いやいや、誓いの口付けみたいにって言ってよー」 「だって俺、鼻水たらしたクソガキだっただろ?」 「そんなことないよ、友哉はめちゃくちゃカッコ良かったって!」 「うわ、思い出フィルターかかってるなぁ」 「いやいや何のフィルターもかかってないって。覚えてないの?」 「覚えていない」 「そんなぁ、俺にとっては美しき思い出なのに」 「ウツクシキって、そりゃあきらは綺麗な子だっただろうけど」 「友哉だって、昔からずっときれいだったよ」 「はは、そんなこと言われたことがないよ」  子供の頃から友哉に近づく女の子を俺が徹底的に排除してきたから、友哉は同世代の女の子とはほとんど話もしたことが無い。そのせいで、友哉は自分の容姿をかなり悪いものだと思い込んでいる。 「ほんとのほんとに友哉はきれいだよ」  誰よりきれいな友哉は自分の価値を知らずに苦笑した。 「はいはい、ありがとな」
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