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「俺とあきらが入っていたオカルト研究部の部長なんですけど」
吉野に取り憑いていたあの小鬼のことか。
臍の緒の封印がとかれた二ヶ月前から俺には色々なものが見えるようになっていたけれど、そのことを友哉には言っていない。でも、式狼を見ることが出来る俺が、あの小鬼が見えないというのは不自然かもしれない。
どこまで告げて、どこまで隠すか、嘘つき狐は線引きに忙しい。
「あー、そういえば俺も? 吉野部長の左側にぼんやりしたものを見たことがあるかも?」
「ほんとか?」
「うん、気のせいかと思っていたけど、友哉も同じものを見たんだね」
「あきらも感じたんなら、やっぱり吉野部長には何かが憑いていたんだ。あれっていったい何なんだろう? 吉野部長は大丈夫なのかな」
「どうだろ? でも家族全員無病息災って言っていたから守り神みたいなものじゃない?」
「そうならいいけど……。俺、何かがおかしいと思ったのに、その事を吉野部長に言わなかった。どうしよう、あれがもし悪いものだったら……」
心配そうな顔をする友哉を見て、雪華が俺に合図を送ってくる。
俺は苦い顔をして、渋々うなずいた。
雪華はほっとしたようにうなずき返し、友哉に言った。
「気になるなら、今度その子をここへ呼ぼうか。私が見て判断するよ」
「本当ですか? ありがとうございます、雪彦さん」
友哉の顔がパッと明るくなる。
雪華は微笑ましいものを見るように優しい顔をした。
これまでさんざん『あれ』によって友哉を痛めつけてきた張本人のくせに、雪華は手のひらを返したように頼れる保護者を気取っている。
なんとなく面白くなくて、俺は口を尖らせる。
友哉のことを知れば知るほど、誰もが友哉を好きになってしまう。
妖狐の力を使う俺とは違って、友哉は本物の人たらしだ。
「あの、もうひとり友達を呼んでもいいですか」
「ああ、もちろんかまわないよ」
「友達って、もしかしてミコッチのこと?」
友哉がこくりとうなずく。
「吉野部長と御子神にはお礼を言わないと。あの日救急車が通れる道まで俺を運んでくれたんだろ?」
「うん、あの時二人がいてくれてすごく助かった」
「俺はもう家にも帰れないし、学校にも……多分行けないだろうし、きっと心配していると思う」
「そうだよね。俺から二人に連絡しておくよ」
「うん、頼む。ありがとな」
俺は心の中で、唸りながら頭を抱えた。
あの二人は俺の本性を知っている。友哉に会わせる前にあの二人とはきちんと話をしておかなければならなくなった。友哉に何を話していいか、何を話してはいけないのかを徹底的に分からせておかないと。
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