4-(5) どこまで隠すか

5/8
前へ
/370ページ
次へ
 溜息が出そうなのを必死にこらえる。吉野は簡単に操れるけれど、どんな力にも影響を受けないミコッチは手強い。ミコッチ本人ではなくて、周りから攻めていくのがいいかも知れない。ミコッチの攻略方法をめまぐるしく考えていると、急に友哉が大きく深呼吸した。 「雪彦さん」  雪華に呼びかけ、すっと背筋を伸ばす。 「雪彦さん。俺、雪彦さんに聞きたいことがあるんです」  姿勢を正す友哉につられて、雪華もしゃんと背筋を伸ばした。 「聞きたいこととは」 「二ヶ月前の呪詛って何ですか」  雪華がぎくりとして、顔をこわばらせた。 「なんの、ことかな」 「目はまったく見えませんが、耳はちゃんと聞こえます。二ヶ月前に命じられて呪詛を作った、呪詛返しにあったと、そういうことを雪彦さんは言っていました。呪詛というのは俺とあきらに関係があることですよね」  ぴりっと空気が緊張する。  友哉は髪をかきあげて、欠けてしまった右耳を露わにした。  雪華は食い入るようにそれを見る。 「その傷は」 「これは二ヶ月前に負った傷です。俺は耳を喰いちぎられました。あの時の『あれ』は……ええと式狼というんですよね、あの時の式狼は今までで一番強くてしつこくて、とても怖いものでした」  友哉が髪から手を離すと、ぱさりと髪が落ちかかって耳の傷を隠した。 傷を隠すために髪を伸ばしていたのだと気付いたようで、雪華がつらそうに顔を歪める。 「二ヶ月前、あきらの叔母さんが失踪したんです。木箱を開けてから」 「木箱……」 「黒い箱にはとても怖い式狼が入っていました。あの黒い箱は、雪彦さんが作った呪詛だったんですね」  雪華は返事をしない。 「あなたにそれを作るようにと命じた人がいるのなら、犯人が分からないと言うのは嘘だということになります。本当は誰があきらを呪っているのか、あなたは知っている。そうじゃありませんか?」  友哉の疑いは雪華に向いている。  でも、ここで本当のことは言えない。  俺を攻撃していたのは大賀見家の一部の誰かなどではなく、大賀見家全体の総意によるものだった。  狙われていた理由も跡継ぎ争いなんてものではなく、俺が大賀見家の脅威になるような妖狐だったからだ。 「返事が無いのは肯定ですか? あなたに命令出来る人ということは、一族の中で地位の高い人ということになるんでしょう?」  どこまでを告げて、どこまでを隠すか。  俺が半分狐のあやかしで、ひどい嘘つきで、人の命などなんとも思っていない化け物だということは友哉に知られてはならない。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加