4-(5) どこまで隠すか

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 俺は雪華と目を合わせた。  雪華は分かっていると言うように、うなずいた。 「命じたのは大賀見家当主、大賀見道孝(おおがみみちたか)様の奥様だ」 「奥様……?」  奥様?   奥様なんてどっから出てきた?  雪華を見ると、任せておけというように片方の口角を釣り上げた。 「当主の奥様は大変嫉妬深い人でね。彼女は不倫した夫を許すことが出来ず、不倫相手もその息子も心底憎んでいる。被害妄想もひどくて、あきらが自分の子供を蹴落として当主の座を狙っていると思い込んでいるんだよ」 「どうしてですか? あきらは自分の父親が誰かも知らなかったんですよ。そんな家の当主の座なんて、あきらが欲しがるわけがないでしょう」 「ああ、もちろん分かっている。でも彼女はあきらを調べて、貧しく複雑な家庭の中でもきちんと育っていることを知った。学校でも成績が良好で常に人気者であるあきらに、どうやら相当な危機感を持ってしまったようなんだ。彼女の息子は虚弱で凡庸だから、いずれあきらに引きずり降ろされてすべてを奪われるなどと思い込んでしまった」 「そんな……」  友哉の手が俺を探すようにこちらへ差し出される。その手を握ると、少し震えていた。 「あきらは今までケンカのひとつもしたことが無いんです。争いごとなんて好みません。すごく穏やかな性格をしているんです。あきらは誰かを蹴落としたり誰かの大事なものを奪ったりできる人間じゃない。本当に、すごく優しいのに」  握った手に力が加わり、友哉は悔しそうな顔をした。 「友哉、俺大丈夫だよ」 「だってひどい誤解をされているから」 「うん、友哉が分かってくれていればいいよ」  胸の奥がほわっと温かくなって微笑むと、雪華は何か言いたそうな目で俺を見ていた。うまく騙しているとでも言いたいのかもしれない。  でも、友哉と二人でいる時は、俺の中から憎しみや殺意が溶けて無くなる。友哉の前では、俺は優しく穏やかでいられるんだ。それは別に嘘じゃない。 「申し訳ない……。私は彼女の父親に返しきれない恩があって、呪詛を作ることを断り切れなかった。でも、あの日病院であきらと会って直接話してみて、バカなことしたと自分の間違いを悟った。当主にもすべてを打ち明けて、あきらを保護することにしたんだ」  友哉の俺の手を握る力が少し弱まった。 「そうだったんですか……」 「今は当主の道孝様がきちんと目を光らせている。奥様もこれ以上バカな真似はしないだろう」 「はい。あきらが安全ならそれでいいんです」  乗り切ったのか?  矛盾点はもうないよな?  雪華と二人、目配せをする。 「あの、それともうひとつ」 「まだ、疑問が?」
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