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友哉が何を言うのかと、俺と雪華は軽く緊張する。
「呪詛返しっていうのは」
話題が俺達の嘘からそれたので、ほんの少し力が抜けた。
「呪詛というものは、破られれば術者に返って来る。それを呪詛返しという」
「返されるとどうなるんですか」
「自分がかけた呪詛を自分で受けることになる。返されたものは数倍の威力になっているから、最悪、死ぬこともある」
雪華は無意識のように、自分の頭に巻かれた包帯に触れる。
初めて会った時からボロボロだったが、そのわけが分かった。
この男は自分のかけた呪詛を返されてこんな有様になっているんだ。
「あの……二ヶ月前のあの時、俺達は確かに必死に抵抗したけれど、お祓いの術なんて使えませんし、腕を振り回して騒いでいただけです。あれで呪詛を返したということになるんですか?」
「あの黒い箱に込めた呪詛は『あきらを殺す』というものだった。でも、友哉君が身をていしてあきらを庇ったために、呪詛は成就しなかった」
俺の体を抱えこむようにして、大丈夫だと繰り返していた友哉。
体中に噛みつかれても、俺から離れなかった友哉。
あの日、命懸けで守られた記憶は鮮明に残っている。
「呪詛が成就しないと呪詛返しにあうってことですか」
「ああ、そうだ。今では成就しなくて良かったと心から思っているよ」
「はい……。でも、雪彦さんはひとりで呪詛返しを受けたんですよね。あんなに強くて怖いものを、ひとりで」
「因果応報だよ、仕方がないことだ」
「でも、命じられてやったことなんですよね。それで、あなたは足を」
「ああ……そうか。友哉君は耳がいいな」
雪華は自分の足を見下ろした。
友哉は視力に頼らなくても、雪華がボロボロなことに気付いていたらしい。
「俺はあきらを庇って呪詛を返したことは何も後悔していません。でも、なんていうか……」
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