5-(1) 狼はがし

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5-(1) 狼はがし

 (こけ)(まろ)びつ逃げまどう少年を、暗闇の中で追い回す。これってどこからどう見ても、俺の方が悪役みたいだ。 「来るな、く、来るなー!」  叫び声が非常灯だけの暗い廊下にこだまする。上履きでバタバタと走って行く彼は、何も無いところで派手にすっ転んだ。  俺は万が一見とがめられた時のためにこの学校の制服を着ていたけれど、上履きを忘れてしまって革靴を履いていた。静かな校舎の中にカツーン、カツーンとやたらにそれっぽい足音が響き渡っていく。  走って逃げる主人公に、なぜかゆっくり歩いても追いついちゃう悪役。そういうシーンはよく見るけれど、なるほどなぁと思った。焦って逃げる方は足がもつれてあまりスピードが出ていない。 「うはぁ、夜の学校って雰囲気あるよねー」  後ろをついてくる男子生徒5人に同意を求めると、うっとりした顔で「はい、あきらさん」とうなずいた。  振り返ると薄暗い廊下の先に明かりの洩れる生徒会室がある。この三乃峰高校の治外法権、大賀見誠司(おおがみせいじ)の取り巻きどもの溜まり場だ。  今はそこの床の上に、顔や体の腫れあがった男子生徒と、半裸に剥かれた可愛い女子生徒が気絶して転がっていた。誠司と取り巻きの悪ガキどもが男子生徒をリンチした後に、意識の無い女の子に何をしようとしていたのかは明白だ。 「あーあー、分かりやすいクズだなぁ、俺のイトコは」  雪華に作らせたファイルを読んで、とりあえずここへ来てみた。誠司が学校を私物化していて、夜もここにいることが多いと書いてあったからだ。  まだ下見のつもりだったけれど、ちょうどこれから悪ガキどものお楽しみという現場に行きあってしまって、予定外だけど『狼はがし』を実行してしまうことにした。  誠司に目を付けられた哀れな女の子と、それを守ろうとした哀れな男の子がどうなろうと俺の心は痛まないけれど、もしここに友哉がいたら助けるんだろうなと思ったから。  学校というのはどこも同じようなつくりをしているらしく、ここも俺の母校の御前(みさき)高校と同じく渡り廊下があった。大賀見誠二はその渡り廊下をひぃひぃ言いながら必死で駆けていく。 「おーい、誠司君。いいもの見せたげるよー。君が命令してリンチさせるところとかー、気絶した女の子の制服を脱がせようとするところとか―。この動画、警察に持って行っちゃおっかなー」
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