5-(1) 狼はがし

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 渡り廊下の途中で、大賀見誠司は顔の前に手をかざしながら振り向いた。 「う、う、うるさい! そんなもの、いくらでも握り潰せるんだ! 三乃峰の警察は大賀見の言いなりだぞ!」 「へぇー、そうなんだー。大賀見家ってすごいんだねー」  言いなりかどうかはともかく、雪華の資料にも警察内部に大賀見の手駒がいることは書いてあった。誠司の犯罪行為は今までうまく揉み消されてきたんだろう。 「分かったら立ち去れ! 下賤な狐の分際で俺の前に顔を見せるな!」  誠司は両手を顔の前に出したまま怒鳴っている。久豆葉あきらの目を見てはいけないと、一族の間で言われているんだろうか。 「あのさぁ、メデューサじゃないんだから、俺の顔を見ても石化しないよ」 「こ、こっちに来るな! 狐の血を引くケダモノめ!」 「ケダモノの所業やりまくっているのはそっちじゃんか」 「う、う、うるさい! 俺の狼がお前を噛み殺すぞ!」 「ふうん、狼? どこにいるの?」  挑発するように言うと、誠二は小さく何かを呟いた。銀色の影が揺らめいて、一匹の狼が現れる。  おや、と思った。  雪華の式狼とは違って、柴犬くらいの大きさだ。 「お前にも見えるだろう? 仮にも大賀見の血が流れているんだからな」  勝ち誇ったように言われて、俺は首を傾げる。 「うん、見えるよ。なんか小さいのが」 「なんだと! この鋭い牙が見えないのか! いけ、タイガ! 狐野郎を噛み殺してしまえ!」  タイガと呼ばれた式狼が、こっちをめがけ高く跳躍する。 「おおっ、小さいけどやっぱ狼だねぇ」  見上げた俺は一歩も動かなかった。  肉壁が5人もいるから、動く必要が無かったのだ。  ガブリと肉を断つ音が響いて、俺を囲んだ5人の内の1人が、血を噴き出しながら崩れ落ちる。 「なっ! タカちゃん!」 「うわわ、ずいぶん派手に血が出たねー。殺せなんて言葉、軽々しく言っちゃだめだよ、誠司君」 「お前……」  式狼がスタッと誠司の前に戻り、威嚇するようにこっちを睨みつけてくる。  誠司は小さな狼の後ろに体を縮こまらせて、怯えた顔をこちらに見せた。顔を隠すのをもう忘れている。  俺は雪華が作ってくれたファイルを悪役っぽい仕草でぱらりと開き、肉壁になっているクズどもの間から誠司に笑いかけた。内容をちょっと誇張して読むふりをする。 「ええとー、大賀見誠司くん18歳。大賀見家当主の甥っこで、実力も人気もまったく無いのになぜか生徒会長をしている頭の悪い暴君タイプかぁ」
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