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(1) 友哉の目に見えるもの
幽霊、魔物、あやかし、妖怪……呼び方はどうあれ、俺にとっての怪異というものは、大まかにふたつに分けられる。
友哉の目に見える怪異と、友哉の目に見えない怪異だ。
「友哉、どう、いる?」
目的のアパートの駐車場に車を停めて、助手席の友哉に聞く。
「うん……」
友哉はゆっくりと首を巡らせていく。その動きに合わせて、ゆるく伸びた髪の間からちぎれた右耳が、ポロシャツの襟の奥には皮膚がひきつれた傷跡がちらりと見えた。
友哉の目は俺の前を素通りして、ある一点で止まる。アパートの一階の右端の角部屋だ。
「いるな」
「何人いるか、分かる?」
「ええ……と……」
友哉は眉をしかめた。
「6人、だけど……」
「だけど?」
「なんだろ、時々ちらちらして5人になったり6人になったり。あ、でもやっぱり6人だ」
俺の目には今、6人どころかパーティーでも開くのかというくらいにごちゃごちゃとした影がひしめいているのが見えている。
友哉に見えている霊は6人、見えていない霊が十数人……いや人間ではないような形の奴もいるから十数体か。
これは、なかなかに厄介な状態みたいだ。
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