(2)わたし、カリン、今あなたの後ろにいるの

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―― クラスを仕切ってるやつらに。 ―― 花梨が心配じゃないのかって言われて、むりやり。 ―― あいつらはぜんぜん心配なんかしていないくせに、面白半分で幽霊アパートを見に来たかっただけよ。 ―― 花梨のことは心配だよ。心配だけど、でも瑠衣は来たくなかった。 ―― 私も。だって、ここ怖い噂があるし。 ―― 花梨にまた会いたい。でも、忍び込むなんて嫌だった。 ―― あの、私達のこと、学校に言い付ける? 「そんなことはしないよ。俺達も肝試しに入ったんだ。な、あきら」 「う、うん」 ―― ほんとう? じゃぁ出口分かる? 「出口? 玄関ならすぐだろ」 ―― どっち? 「あっちに見えてるよー」  あきらが開けっ放しのドアから玄関を指しているんだろう。  でも、二人は怯えた顔で首を振った。 ―― 玄関なんてそっちにないじゃない! どこにあるの? 「玄関がない?」 ―― そうよ! さっきから探しているのに、窓も玄関も見当たらない。どうなっているの、この家! ―― あいつら、むりやり私達を連れて来たくせに、さっさと帰っちゃって。 ―― 真っ暗なのに懐中電灯も持って行っちゃったの。 ―― スマホしか光るものが無くて、でも。 ―― でも、スマホは。  二人は怯えたように、芽衣の手にあるスマートフォンに目を落とす。  タイミングを計ったように、いきなり着信音が鳴り響いた。レトロな黒電話のベルみたいな音がジリリリと鳴り響き、四人ともびくりとする。 ―― またかかって来た……! 「出ないのか?」 ―― いや……いや……! 出たくない……!  芽衣がぶるぶると震え出す。  瑠衣がいやいやと首を振る。  着信音がしつこく鳴り続ける。 「嫌なら切ればいいんじゃないか」 ―― 拒否を押しても切れないの……!  代わりに出てやりたいくらいだが、俺は幽体には触れられない。芽衣が持っているスマートフォンを持とうとしても指をすり抜けてしまうだろう。 「スピーカーにしてから応答ボタンを押してくれるか」  彼女の指が震えながら動き、通話状態になる。  スマートフォンからは、すすり上げるような泣き声が聞こえてきた。 「お前は誰だ」 『わたし……カリン……』  弱々しい声が答えた。カリンというと、行方不明になった近田花梨か。さっき、洋間で泣いていた子だろう。 「今どこにいる?」 『この家の中にいるの……そっちに行くね』 「ああ、わかっ……」 ―― いやぁ!  いきなり芽衣が通話をオフにした。  芽衣と瑠衣が恐慌状態で震えながら抱き合って泣き始める。
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